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四月、季節は春。 春は世間一般ではお花見だ、歓迎会だなどと浮かれる季節となりがちだが 俺たち学生からしたらそれ以上に意識してしまうものがある。 そう、受験及び就職活動だ。 月日が立つのは早い。 去年までは浮かれていた俺たちSOS団(朝比奈さんを除いて)だが 今年から俺たちも三年生なのである。 俺は二年の時も低空飛行さながらのスレスレ具合だったため冷や冷やしたが無事進級した。 そして我等が天使朝比奈さんは無事東高近くの大学に受かり終わり次第 俺たちの部室に来てメイド兼お茶くみ係をしてくれている。 わざわざ来た上に何と律儀な事だ。爪の垢を煎じてどこかの団長さんに飲ませてやりたいね。 他のメンバーは言わずもがな皆余裕しゃくしゃくで進級した。あ~忌々しい。 しかし受験年だからと言って勉強休みなど団長が与えてくれるはずもなく 今日も今日とて鶏が毎日朝早くに鳴くように当然として部室に向かっている俺なのである。 俺は授業が終わるといつもの道を通りいつもの部室前で人間が外出する時に靴を履くように当然に 行わなければならない動作ノックをし、朝比奈さんの「は~い」と言うまるで天使のような いや、天使すら従えてしまいそうな可愛らしい挨拶を聞くと部室に入った。 浮かれるような天候の春なのだから開けてメイド服への着替えシーンを目撃しても 「すいません、うっかり」で済みそうだなと思いながらも そんな勇敢極まりない行動など出来ない俺を自分で呪いながらもね。 部室の中にはこれまた寒いと鳥肌が立つように当然として いつもの定位置に座り分厚いハードカバーを読んでいる長門を見た後 「あれ?ハルヒはまだ来ていないんですか?」と朝比奈さんに質問した。 ハルヒは授業が終わったと同時に教室を飛び出していったはずなのにと首をかしげていると 「涼宮さんなら先程玄関で先生と討論を繰り広げていらっしゃいましたよ」と 何故か後ろから答えが返って来た。俺は振り返りむかつくほどの爽やかスマイル男古泉を一瞥し 「討論?」と聞き返した。 「はい、討論でした。遠くから見かけただけなので何を話しているかまでは分かりませんでしたが 大層怒鳴っていましたよ。ちなみに今僕は閉鎖空間帰りです。」 お前の事などどうでもいいが、ハルヒが先生を相手にするなど珍しい事もあるもんだ。 嵐が起きなきゃいいけどな。 ま、何にせよ今だけは身体を休めておかないといけない。 その話を聞いたところによるといつあの団長が怒りながら此処にやって来るか分からないからな。 その後俺は朝比奈さんの入れてくれた何よりも美味なお茶をすすりつつ 古泉とアナログなゲームをしながら、時々長門を見るといったいつも通りの行動をとっていた。 あのハルヒが来るまではな。 その日のハルヒは荒れていた。 いつも以上の大蹴りでドアを蹴飛ばすと挨拶もせずズカズカと団長席に座り オドオドしている様も美しい朝比奈さんの入れたお茶をいつもの倍のスピードで飲み干しつつ パソコンを始めたかと思うとこう俺に絡んできた。 「何であんたはそんなに頭が悪いのよ!!」 WHAT?自慢じゃないがそんなの今に始まった話じゃないだろ? 「だからこそよ!!あんたなんか団始まって以来の落ちこぼれよ!!このままじゃ…」 このままじゃ? 「とにかく今日は解散!!そして家でちゃんと勉強すること!! いい?特にキョンは馬鹿なんだからしっかり勉強しなさいよね!!」 そんな団長の身勝手な解散宣言により帰らざるを得なくなった俺たちは家へ帰宅した。 普通学生ならば何かしら用事のあるものだがいつもSOS団の活動でスケジュールが 埋められた俺は何もすることがなく仕方なしに机に向かった。 「全くわからん」 この前デパートで何気なく買った問題集に取り組んだのだが十問目で壁に当たったのである。 その後数分うなったが分からん時は頭を休めるのが一番などという俺流ルールの元 ベッドに入りそのまますやすやと眠りの世界へ落ちてしまったのだった。 「…き…下さ…」 ん?何だ? 「起きて下さい」 目を開けると古泉が俺を覗き込み起こしていた。 顔を近づけるな、気持ち悪い。と言うより何でお前が俺の部屋にいる。 「まだ寝ぼけているようですね。此処はあなたの部屋ではありません。」 俺の部屋じゃないって?なら何処だ? 「周りを見れば分かるでしょう?」 あぁ、分かってはいたさ。だが認めたくなかったね。 また此処、閉鎖空間に来るなんてさ。しかもご丁寧に制服に着替えさせられて。 希望があるとすればSOS団の面子が揃っている事だな。 「そうですね。心強いばかりです。」 全くだ。しかし何故こんなところに俺たちはいるんだ? 「おそらく今日の涼宮ハルヒのストレスの元が原因」 やっぱりか。ならまたハルヒの奴を見つけなければならんようだ。 でもその前に、起きて下さい朝比奈さん。 「ふぇ?ななな、何でキョンくんが私の部屋にいるんですかぁ?」 先程俺も同じ事を言いましたよ。しかし朝比奈さんの反応の方が素晴らしかったですが。 「ってことは此処は…閉鎖空間…ですか?」 はい、間違いありません。長門とついでに古泉がそう言ってますから。 「そっかぁ~…やっぱり…部室での涼宮さんおかしかったし…」 確かにそうですね。でもまずは元の世界に戻るためにアイツを見つけないと。 「そうですねぇ…」 「闇雲に探しても見つからないでしょう。居そうな場所から探しませんか?」 居そうな場所ね。やっぱりあそこしかないだろ。 「部室。過去の同様の閉鎖空間の例でも此処での出現率が一番高い。」 だろうな。俺たちの集まる場所は此処か駅前か喫茶店くらいだからな。 見慣れたはずだが灰色だとやはり不気味な廊下を渡り部室前に行く。 途中で朝比奈さんが泣きそうになりながら抱きついてきた時理性を保てた俺を自画自賛するね。 「いいですか?開けますよ?」 そう言うと古泉が先頭でドアを開けそれに続き俺、長門、朝比奈さんと続いた。 やはり居た。 ハルヒはしばらく此方に気づかなかったが俺たちの姿を見るなり いきなり100Wの笑顔になり「遊びましょう!!」と叫んだ。 それを聞くと朝比奈さんは安心したように笑い、古泉はやれやれと言うような顔をし、 長門はやっぱり無表情だった。しかし俺は笑えなかった。 いつもと何か違う感じがした。 何がだ?何がいつもと違う?遊びましょう? そうか…ハルヒは… 「何やってるのよキョン!!早く遊ぶのよ!!」 ハルヒ 「何よ?」 何を隠してる? 「え?」 お前はいつもと違う。俺たちに何を隠してるんだ? 「何…言ってるのよキョン。いつもと同じよ…」 いや、違うね。俺の知っている涼宮ハルヒは遊ぼうなんて言わない。 「いつも遊んでるじゃない…」 そうじゃない。ハルヒがいつも俺たちとするのは 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者探しかSOS団の名前を広めることだ。 決して遊ぼうなどとは言わない。 「それは…」 「それは……あんたが悪いのよキョン!!」 何だって?俺が悪い? 「そうよ!!あんたの頭が悪いから悪いの!!」 何言ってんだ。そんなの前から「あんたの頭が悪いから皆同じ大学に入れなさそうなの!!」 は? 「先生に聞いてみたのよ。そうしたら私達はともかくあんただけは… あんただけは今のままじゃ危ないって…何とかしなさいって掴みかかっても無駄だった… なのにあんたは平然としてる!!嫌じゃないの?離れたらSOS団は解散になるのよ?」 俺のために… 「あんたのためだけじゃない。この団のためよ…」 でもな、ハルヒ。 「…何よ?」 いつからこの団はスクールライフを面白くするための涼宮ハルヒの団になったんだ? 「は?」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団じゃなかったのか? 「何がいいたいのよ…」 「キョンくん…」朝比奈さんが泣きそうなハルヒの近くに寄る。 しかし構わず俺は続ける。 言っちまうのか俺?やれやれと散々溜息をしていたのにそれを続けることになる言葉を言うのか? 言っちまうんだな?いいぜ。後悔はしないでくれよ未来の俺。 「SOS団は離れてもこの世の全ての不思議を解き明かすまで永久不滅なんだろ?」 ハルヒの、古泉の、朝比奈さんの、長門でさえも少しだが驚いた顔をした。 もちろんこの言葉も忘れないけどな。 「俺ももちろんこれから同じ大学に行ける様努力するさ。もちろんな。」 「……ふん…分かってきたみたいじゃない!!いい?さっきの私の言葉は忘れなさい!! 今言ったとおりSOS団はこの世の全てを解き明かすまで永久不滅なんだからね!!」 AM4:00 目覚めると部屋に居た。 全く俺としたことがハルヒに向かってSOS団永久不滅宣言しちまうとはね。 その後寝れたかって?寝れるわけないだろ? 眠い。全然寝れなかったんだ。当たり前か。 しかし助かる事に1時間目は自習って言ってたからな。居眠りタイムだ。 一筋の光を元に疲れた体に更に追い討ちをかける坂をこれから1年も上り続けるのかと睨みつつ 学校に到着した俺に更に追い討ちをかける一言を放ったのは誰だと思う? そう、答えは昨日と打って変わってテンションの高い涼宮ハルヒだ。 「いい?今日の1時間目は何と自習よ!!だからあたしが勉強を教えてあげるわ!!」 昨日の勉強発言撤回していい?なんて夢だと思っているハルヒに言える筈もなく どこぞの先生より教えるのが上手いんだから!!と豪語するハルヒに 眠い頭を酷使することを余儀なくされた。永久不滅宣言をして何だがこれくらい言わせてくれ。 「やれやれ」
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ハルヒ わがSOS団も、本日より番長制を導入するわ。 キョン なんだ、番長制ってのは? ハルヒ そして東京23区計画に打って出るわ! キョン クロス慣れしてないのは分かるが、向こうの話はもっと先に進んじまっているぞ。 ハルヒ というわけでキョン、あんたは「おつかれ番長」ね。 キョン おまえなりに、ねぎらってくれてるのかもしれんが、全然うれしくない! ハルヒ で、古泉君は「きくばり番長」にしようかと思ったけれど、それじゃあんまり面白くないから、期待通り「腹黒番長」よ。 キョン だから、誰の期待だよ? ハルヒ そして、みくるちゃん、あなたは「巨乳番長」よ。いまさら言うまでもないけれど。 キョン こっちも今更だがな、会社でそれを言ったら、ど真ん中ストレートのセクハラだぞ! ハルヒ 最後は有希ね、悩んだけど「微乳番長」で行きましょう。 キョン もっと長門の特性を汲んでやれよ! 仲間だろ? おまえリーダーだろ? ハルヒ じゃあ、「無口番長」はどうかしら? キョン なんだよ、そのうわっつらなネーミングは? 少しは考えろ! ハルヒ 決まりね。 キョン どこで、どうして、決まったんだ、今のは? 長門 なんと呼ばれても関係ない。私はここにいる。 キョン ああ長門、せっかくのいいセリフなのになあ。うう。 ハルヒ さあ、みんな、頑張って行きましょう! キョン ちょっと待った。ハルヒ、おまえは、ナニ番長なんだ? ハルヒ 何って、あたしは団長よ。 キョン みんなが番長になったのに、おまえだけ団長のままなのかよ? ハルヒ だってあたしが団長やめたら、SOS団はどうすんのよ。リーダーを失って迷走しちゃうじゃないの。 キョン いろいろ言いたい事はあるが全部言えないことなのが悔しいが、だったら兼任しろ。SOS団団長と、ナンタラ番長を。 ハルヒ いいわ。じゃあ、キョン、あんたがあたしにふさわしい番長ネームを考えなさい! キョン 番長ネームとは違うと思うが。うーむ。 ハルヒ 人にあれだけケチつけといて、つまらないのだったら死刑よ! キョン くそ、オチを押し付けてやろうと思ったのに、返し技をくらっちまった。……ツ○デ○番長、いや、平凡すぎる。……ポニ○番長、いや、集中しろ、おれ。 ハルヒ どうしたの、キョン? 早くしなさい。 キョン う、うるさい。おまえなんかな、愛妻番長で十分だ!! 長門 安易な駄洒落。絶句。 みくる も、悶絶ですぅ。 古泉 あ、あなたって人は……。 ハルヒ 刑は既に言い渡してあるわね。キョン、あんた死刑よ! いいえ、団長に恥をかかせた罪、万死に値するわ!! キョン オチは自爆オチかよ!!
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◆0 夢と希望に充ちあふれて始まったような気がしないでもない高校生活一か月目にして涼宮ハルヒと関わりを持ってしまってからというもの俺の人生はちょっとしたスペクタクルとでも言うべき出来事の連続ではあるが、しかし上には上が下には下がいる、と昔から言うように俺以上に意味のわからない存在に振り回されて恐ろしく充実した人生を送っているやつというのも世の中には確かに存在する。 今回はハルヒと俺と、そんな一人の男子生徒にまつわる、不幸とも幸福ともいえないような騒動の話だ。 ……え? 誰だ、だって? やれやれ、言わなくてもわかるだろう。 いつだって騒動のきっかけはハルヒであり、そしてハルヒに巻き込まれた俺以外の男子といえば、あいつしかいないじゃないか。いや、谷口ではない――古泉一樹。赤玉変態型超能力者、である。 ◆1 「キョンくん、ちょっとお願いされてほしいことがあるのね」 と、同じクラスの阪中が話しかけてきたのは、長い一日の授業が終わってさて団活へと赴くかなと俺が座りすぎで重たくなった腰を上げたころだった。ちなみにハルヒはホームルームが済んだ瞬間ロケットスタートでぶっ飛んでいってしまったので、後ろの席は空っぽである。 「ん、なんだ? ハルヒへの言付けとかだったら頼むから本人を探してくれ」 探すまでもなく部室にいると思うが、それはさておき、最近のハルヒはクラスの女子とよく話をしているようだし、出来ればこのまま普通にクラスに馴染んで普通の女子高生になってほしい……と俺は思うのだ。って、俺に何の権限があってあいつにそんなことを望むのか、という話だが。 「違うのね」 阪中はそう否定するとなんだか恥ずかしそうにもじもじと身をよじり、上目遣いで俺を見上げた。 なんだよ可愛いな~さすが某国木田の一押し……すまん、妄言だ。 「えっと、用があるのは涼宮さんじゃないのね……」 ごそごそとどこからともなくファンシーな色のものを取り出し、阪中は頬をさくらんぼ色に染めながら、 「これ……」 おいおい、マジか! 「えらくマジなのね! これ、古泉さんに渡してください!」 お願いなのねー(のねー)! とエコーを響かせつつ阪中はどこへともなく走っていき、俺の手の中にはご丁寧に赤いハートのシールが貼られた、どっから見てもラブレター然としたものが残された。 ……はは、お約束だな。 「――ちょっとキョン、今阪中さんに何かもらってなかったかい?」 「いやもらってたよな、それは俺が見るところずばりラブレターだろう!」 ……うるせー。 阪中の声の残響が消えたとたんに話しかけてきた国木田と谷口。お前ら目がギラギラしてるんだが。ああもらったとも、見ろ、この可愛い丸文字で書かれた宛名を。まだ本邦未公開の俺の名前だぞ。 「フルイズミカズキ……? あれ、お前そんな名前だっけ、忘れちまったよ。どのへんがキョン?」 はい、馬鹿ー。 「なんだ……そうだよね、まさか阪中さんに限ってキョンってことはないよね」 さりげなくものすごく失礼だぞ、国木田。残念ながら反論材料がないが。 「つーかまた古泉かよ。キョンもかわいそうになー、あんなのがそばにいたら余計モテなかろう」 お前今のボケだったのかよ! ボケで終わらせずにノリツッコミにまで昇華させてくれないとさっぱりだ。 「食いつくところそこかよ! 俺のことなんかほっといて話を進めろや!」 「よし。……で、なんだ、古泉は実はそんなにモテモテだったのか」 まああの胡散臭い整形疑惑さえ抱かせる顔だからな、わからないでもないでもない。ああ認めたくない。どうせ俺の知らんところで彼女の一人や二人や三人くらいは作っているのだろう。痴情のもつれから刺されちまえ。 すると谷口国木田両名はいかにもうんざりしましたーと言うように首を振り、 「かぁーっ、キョン、鈍いにもほどがあるぜ。あんなに露骨にモテてる奴があるか、忌々しい」 何? そうなのか? 「そうだよ。SOS団だって朝比奈さんとか、たまに見てもわかるくらいあからさまにアタックかけてるよ」 「そのうえ、それになびかない、と来たもんだ。あいつはホモか? Sランクだぞ?」 待て待て待て待て、待て! 朝比奈さんが、古泉に懸想しているだと? 有り得ない。ハルヒが恋をしたり俺が告白を受けるというくらいありえない。 国木田は哀れむような目つきで俺を見やると、「認めたくないのはわかるけどね……」と言った。 違う。断じてそうじゃない。認知するしないの問題ではないぞ。朝比奈さんが古泉に猛烈アタックって、いったいいつの話だ。映画撮影は随分昔に終わったし結局まだ続編は撮っていない。 「毎日お弁当作って九組にいったり、してるらしいけど」 有り得ない。それを俺が知らないなんていくらなんだって、さすがにおかしいじゃないか。俺の知る限り、未来人の朝比奈さんと超能力者の古泉は実はあまり仲がよくなかったはずじゃないのか? 俺は手にした阪中の手紙を見下ろした。俺の知らないところで、何か異常なことが起きている。 ◆2 古泉か朝比奈さん、あるいは第三者だが長門に話を聞く必要があったのだが――部室まで急行する途中で、俺はハルヒに引き止められた。正確には、部室のドアを目前にした廊下の真ん中で、であるが。 「何してんだ?」 「しっ、静かにしなさい」 ドアに張りついて片耳を押し当てながら、ハルヒはとんとんとドアを指差した。どうやら同じようにしてみろ、という意味のようだ。俺としては急いで三人のうち誰かに会いたいのだが、仕方がない―― 『あっ、朝比奈さん!? 何のおつもりですか!』 聞こえてきたのは、何やら切羽詰まった古泉の声だった。朝比奈さんもいるようだが、穏やかではない。 『うふ、お茶にちょっと仕込んじゃいました。古泉くんちっとも振り向いてくれないんだもの。流行りのヤンデレってやつですよ~』 『いや、僕はヤンデレとかキョンデレとか、そういうツンデレに似てるものはもううんざり……ではなくてですねっ』 それですよぅ、と朝比奈さんの可愛らしいはずの声。 『古泉くん、嫌じゃないんですか? あたしは嫌です、こんなに魅力的なのに、立場に縛られて独り身のままなんて』 『それはっ……あなたには、関係のないことですよ』 『そんなことありません。このまま何もしないで手に入る未来は、孤独なだけ……そんなのは嫌!』 『意味のわからないことを言わないでください! わかってるんですか、ご自分が何をしているのか』 『現場の独断で変革を強行しちゃっても、いいじゃないですかぁっ! 既成事実さえあれば、規定事項が……』 ――待て待て待て、こらハルヒ、目を輝かせてる場合かっ! 「そこの二人、ちょっと待ったぁ!」 「「きゃっ」」 ハルヒが張りついているのも無視して、ドアを蹴開ける。部室内では……朝比奈さんが、ウェイトレス姿だった。 「キョン! 何す……」 「ふぇえっ! ご、ごめんなさぁい」 「あっみくるちゃん! 待ちなさい、どこ行くのっ」 朝比奈さんは本物とは思えない勢いで部室を飛び出して行き、床に転んでいたハルヒはバネのように跳ね起きて朝比奈さんを追いかけてあっという間にいなくなった。 ……古泉、いつまでも床に寝ころんでる場合か。まさか、朝比奈さんに押し倒されたんじゃないだろうな。 「いえ、申し訳ないのですが、彼女にいただいたお茶が妙な味でして」 それはまさかあれか、痺れ薬というやつか! 朝比奈さんはそんなものをいったいどっから持ってきたのやら。 「長門さんに、あなたから頼んでいただきたいのですが」 ああ長門な、長門……ってうおっ! いたのか長門! 「……最初から」 助けてやれよ、もっと早く……いや悪い、今からでも遅くないからここに転がってるのを何とかしてくれ。長門はこくりと頷くと、いつもの本から離した手のひらをこちらへかざした。きゅるる、と呪文。 「……いやあ、あなたが来て下さって助かりましたよ……」 むくりと起き上がって古泉が情けない笑顔を浮かべた。もう少しで貞操を失うところでした、か。古泉、お前も普通に童貞だったのか……で、朝比奈さんか……いや、特に何も考えてないぞ。 「……これ、お前宛てに、阪中から預かってきたんだが」 俺はとりあえず持ったままであった手紙を古泉に突きつけてやった。別に怨念など込めていない。 「阪中さん、というと……」 三月に幽霊騒ぎを持ち込んできたあいつだよ。当然覚えてるよな? 向こうはラブレターまでよこしてるんだ。 「ラブレター」 古泉は溜息をつきつつ立ち上がると、机の上に置いてあった通学鞄の中からごっそり紙の束を取り出した。 「これは全て、本日いただいたものです。大半は朝下駄箱の中に入っていたんですが」 ばらばらと机の上一面に広げられた、手紙と思しきハガキ大のカラフルな物体たちに、阪中の手紙を加えて古泉は再び溜息をついた。谷口あたりが見たら何を贅沢に悩んでいるのかと思いそうだが、 「普段からもらうのか?」 「まさか……今日が初めてですよ。それをこんなに」 なるほど、やはり異常事態である。 「朝比奈さんがお前にお弁当を作ってくるそうだが」 「確かに今日はいらっしゃいましたが、それも今日が初めてです」 しかし国木田の話では、毎日猛烈なアタックということだったのだが……いったい何がこんなことに。 助けて長門さん。俺と古泉は揃って読書中の長門に目線をやった。長門は俺にまっすぐ顔を向け、 「朝比奈みくるがここへ戻るまであと五分三十二秒。退避を推奨」 俺がか。 「……違う。古泉一樹が」 だと思ったよ。 ◆3 「で、長門、説明してくれるか?」 校内のどこかで待機している、と言う古泉を早急に追い払い、俺は長門に向き直った。もう少しで朝比奈さん達が戻ってくると言ったが、どうやら長門は朝比奈さんとは逆に古泉を避けたいようだ。 「……説明する」 ありがとな。古泉には後から伝えられるかね。しかし待機って、いったい学校のどこに隠れるんだろうな。 「……古泉一樹には、現在、情報改変が施されている」 ――― 「情報改変……ですか」 はい、と彼女は微笑み頷いた。 僕が校内でのとりあえずの待機場所に選んだのは、生徒会室だった。ここなら涼宮さんには見つからず、その他の生徒も生徒会長が閉め出しているだろう、との判断であり、それは八割は正解だったのだが、しかし僕がすっかり忘れていたのは……相変わらず、生徒会には僕の計算外の人物がいる、ということであった。 「古泉さんの存在を認識した女性が、古泉さんに好意を持つよう設定されています」 生徒会書記にしてTFEI端末である喜緑江美里さんが、うっとりと僕の手を撫でながら言った。 非常に、なんというか、居心地が悪い。なんでこの人こんなにぴったりくっついて座ってくるんだ! 後頭部にヤンキー上がりのきっつい視線がザクザク刺さってるんですが。痛い痛い痛い。神人のパンチよりはマシながら、何かタバコを押しつけられてるようなジリジリした痛みが……。 「つまり、今なら古泉さんはあらゆる女性を――涼宮ハルヒさんを除きますが――落とし放題というわけです。誰でもおっけーですよ、長門さんでも、あの二人が結婚したらキョンキョンになってしまうお嬢さんでも頭部で昆布を養殖しているような奇怪な生き物でも、我々の認識上は女性ですから。まああのような髪の毛の妖怪を選ぶのはよほどの黒髪フェチさんだけでしょうけれど……ところで古泉さんは、髪の綺麗な女性はお好きですか? わかめは髪の毛に良いんですよ」 知ってますけど、わかめ……ていうか、なぜそのチョイス……すごい敵対心が感じられるんですが。 いや待て、そこじゃない。 「……今、涼宮さんを除く、とおっしゃいましたよね?」 「うーん、江美里とお付き合いしてくれたら、もっといろいろ教えちゃいますよ?」 痛っ! なんかあらゆる空気が痛い! 前門の虎後門の狼! 「……喜緑くん。今日はもう帰りたまえ。会長命令だ」 と、会長が言った。 「会長、それは権力の乱用です。不信任案出しますよ」 「我が生徒会にそのような規定はない。早く帰りたまえ」 そもそも、高校の生徒会長には、役員に命令する権限もないんだけどな……と思ったが、余計なことを言っても自分の首を締めるだけだと知っている賢い僕は黙っておいた。喜緑さんはふうと溜息をつき、 「仕方がありませんね、諦めましょう」 とあっさり手ぶらで部屋を出ていった。仕事とか、してたんじゃないのか……。 「古泉……俺が生徒会室でボヤ騒ぎを起こしたくなる前にそのアホ女の思いつきを解決しろよ……」 了解、しました、が……さて、どうしたら彼が僕の思い通りに動いてくれるだろうか。それと今から、部室に戻っても気まずくないだろうか……。はあ。 ――― で、結局、部室に古泉が戻ってきたころにはハルヒによって活動は解散となっており、朝比奈さんはハルヒに付き添われて先に帰っていた。長門も古泉が来る少し前に帰ってしまい、俺は一人であいつを待つ羽目になっていた、というわけなのだが。 「大体の事情は、ある方がご親切にも教えて下さったのですが……長門さんは、今後について何か言ってませんか」 なぜか、ご親切にも、を強調する古泉。よっぽど親切な人にあったのだろうか。事情を知ってる人って誰だ? 「長門は、こんなことが起こるに至った理由がわからなければ解決不可能だと言っていたが」 あいにく、長門にわからないことは俺にもわかりそうもない。何せハルヒの考えを当てようなんてな。 すると古泉は、ふっと呆れとウンザリが八割くらいのこちらが見ていてムカつく笑みを浮かべた。 「あなた方にもこれくらいはわかっていただけるかと期待していたのですが……相変わらず疎いんですね」 馬鹿にしてんのか。そうなんだな? 帰っていいか。 「聞いてください。僕が会う女子生徒すべてにアプローチを受けているのは涼宮さんが望んだからです。しかし涼宮さんは僕のためを思ってハーレムにしてくれようとしたわけではない。これはいいですね?」 そうだな、まあそうだろう。あのハルヒが他人中心の世界を作ろうと思うはずがない。 「では、何のために涼宮さんは世界を改変したのか――答えは簡単、要はあなたのためなのです」 俺かよ。お前は毎回毎回俺に責任をとらせて楽しいのか! 今回ばかりはさすがに心当たりがまったくないぞ。 「単純な話です……ライバルなんかいなければいい、自分以外が、あなたではない誰かを好きになればいい、と涼宮さんは考えたのでしょうね。あなたでなければ、別に誰でもよかったんじゃないですか」 毎回毎回、だから僕は宝くじが当たらないんですよ、と古泉が呟く。意味不明だ。 「つまり……どういうことだよ」 「心変わりしない、と涼宮さんに誓ってください」 いつ、どこで、なぜ、どうやって。 「明日にでも、ラブレターというのはいかがですか? 幸いここに見本が大量にありますし」 「悪趣味だぞ、古泉」 「失礼……わかっていただけた、ということでよろしいですか?」 いや、正直お前の論理の飛躍にはあまりついていけていない。そもそも俺の心の何がどう変わるのか。 「とにかく、時を見て、行動してください」 と、いつになく真剣な声音で古泉が言った。こいつも追いつめられるとグレる、というわけらしい、が……冗談でもなんでもなく、俺がどう行動したらお前がモテなくなるんだ? 続きはWebで!
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文字サイズ小で上手く表示されると思います 「台風」より 僕は、涼宮さんを守れませんでした。 今の僕は涼宮さんが望んだ超能力者なんかじゃない。何もできない、ただの人間です。 僕は、でかいくちばかり叩く最低の人間だったんです―― 涼宮ハルヒの愛惜 第9話 ハルヒの選択 前編 ――ポン 4階 女性下着売り場です―― 「お~っと、キョン君はここまでだよ? 長門っちのあられもない姿を見るにはまだまだ好感度が足りないから プレゼント攻勢お勧め! 買い物が済んだらメールするから本屋さんとかで色々妄想しながら待機待機ぃ!」 どん、どん、どん! みんなと一緒にエレベーターから出ようとした俺は、鶴屋さんの張り手によって個室の中へと押し戻され、 時間制限で閉まり始めた扉の向こうでは鶴屋さんと朝比奈さんが優しく笑い、長門は無表情で軽く手を上げていた。 ――下へ参ります―― 日曜のデパート。いろんな意味で新生活を始める事になった長門の日用品を揃えるべく買い物に来たのは、ハ ルヒと古泉を除いたSOS団のメンバーだ。 ここ数日、ハルヒは古泉と2人で行動する事が増えている。 今日の買い物も、本当はみんなでくるはずだったのだがハルヒと古泉は当日になってキャンセルしてきたのだ った。 さて……これは何の前触れなんだろうな? 本屋のテナントに入り、平積みになった蔵書のタイトルを眺めながらのんびりと歩いていると……何でお前が ここに居るんだ。 「やあ、どうも」 新刊コーナーに立寄ってみると、そこには何故か営業スマイルを浮かべる超能力者が居た。 ……あれ? ハルヒは一緒じゃないのか? 「ええ」 辺りを見回してみても我らが暴君の姿は見当たらない。 「長門さんの買い物に、お付き合いできなくてすみません」 みんな都合ってもんがあるから気にするな。 俺は古泉の隣に立ち、目の前に置かれていた本を何となく広げてみる。 ――ん~悪いが俺には面白い本だとは思えんな。大好評とか書いてあるけど本当に売れてるのか? 数分後、ポケットの中で携帯電話が振動を始めた。 届いたメールを確認してみると、どうやら下着売り場での買い物が終わったので1階の家電売り場に来て欲し いらしい。 時間つぶしにはなった店員お勧めらしいその本を元の位置に戻すと 「よかったら、これを読んでみてもらえませんか?」 そう言って。何故か古泉は俺に一冊の本を押し付けるのだった。 古泉。読んでみろって言っても、これってお店のシールが貼ってあるから支払い済だろ? お前が読むつもり で買ったんじゃないのか。 「そのつもりだったんですが、気が変わりまして」 買っておいて読まない? ……よくわからん奴だ。 古泉に諦める様子が無いのを見て、俺は手を伸ばした。 とりあえず借りておく。 「ええ。読み終わったら感想を聞かせてくださいね」 いつになるかわからんぞ。 古泉は俺に本を手渡すと、軽く手をあげて去っていった。 さて、あいつはこれからどうするつもりなんだろうな。もしかして……ハルヒと待ち合わせか? 気にならないといえば嘘になるが……ま、俺が詮索する事じゃないよな。 自分でもよくわからない溜息をついて、俺は1階へと足を向けた。 ーー 不思議な程、罪悪感はありませんでした。 ーー デパートの隣、そこそこに客の出入がある小さな喫茶店の中。 「……ありがとう。多分、これで変化が起きるはず」 僕の報告を聞いた涼宮さんは、自分の考えを確認するように何度も頷く。 変装のつもりなのか大きめのサングラスをかけた涼宮さんは、氷が解けて薄くなってしまったアイスコーヒー を口に含んで息をついた。 本来であればこの後、彼は長門さんと2人でデパートの映画館に行くはずだったんですよね? 「そう。でも、古泉君が渡した本は2人が今日選ぶはずだった映画の原作。きっと2人は映画を止めるはずよ」 涼宮さんがそう呟くのを待っていたかのように、マジックミラーになっている喫茶店の窓の向こう側を、4人 が通り過ぎて行った。 これは彼女が期待した展開のはずだ。 それなのに涼宮さんの口元は苦しそうに歪んでいて……僕は小さな閉鎖空間が発生したのを感じていた。 4人の姿が見えなくなった後、 「……ねえ古泉君。今日はこの後、予定とかある?」 いえ、何も。 「じゃあ、キョンと有希が見るはずだった映画。一緒に見てみない?」 はい。 「決まりね」 ことさら明るく彼女は言って、その言葉が無理をしたものだと分かっていても僕は気づかない振りをした。 ――涼宮さんの力はとても強力で、残酷な物だった。 涼宮さんが彼と長門さんの関係が近づいた事を認識すると、その力は勝手に発動するらしい。 遡る時間は不定で1日から2日。能力が発動すれば、まるでそれまでの出来事が夢だったかのようにベット の上で目を覚ましてしまう……。 最初は、自分の知っている通りに全てが進むのが楽しかったそうです。 望まない展開を避けて結果的に自分に期待した道へ進む、テレビゲームにおけるセーブとロードの様なもの なのでしょう。 ……違うのは、自分の意思ではセーブもロードもできないという事。 つまり、彼と長門さんの関係が進む事を止められなければその時間を永遠に繰り返すしかないんです。 「実はね、この映画を古泉君と見るのは3回目なの」 楽しそうに話しているというのに、彼女の顔は寂しい。 プライドの高い彼女の前で、僕はサングラスのせいでそれに気づけない間抜けな男でなければいけない。 人込みの中、僕は彼女が歩き易いようにスペースを作りながら指定された席へと向かう。 涼宮さん、結末を先に言ったりしないでくださいね? 席に座りながら言った僕のその言葉に 「それって2回目」 また、彼女は笑った。 ――せめて、その記憶がなければ。 終わらない夏休みの時の様に、改変前の記憶が彼女に蓄積されないのであればまだよかった。 あの時は周りがそれに気づくことで変化が生まれ、結果彼の活躍によってループしていた時間は彼女が知ら ない間に終わりを迎えられました。 だが、今回は自分で終わりを見つけなければいけないのでしょう。 その終わりとは――きっと。 「……ねえ古泉君、この先にキスシーンがあるの」 顔を寄せてきた彼女は小さな声で呟く。 だが、スクリーンの中では激しい銃撃戦が行われていてとてもそんなシーンに続くようには見えない。 本当ですか? そう訪ねる僕に、彼女は指を2本立てて見せる。 なるほど、この返答も既出なんですね。 やがて映画は佳境に突入し、傷ついた主役の男が1人で歩きはじめた。 不意に主人公の背後から声がかかり、振り向いた主人公の唇を声の主――一緒に戦っていた友人が奪った。 ちなみに、友人とは男性で主人公も男性。 あっけにとられる僕の隣で涼宮さんが嬉しそうに笑い、その姿を見て僕も微笑む。 涼宮さん。 「え、何?」 小さな声で話しかけた僕に、彼女は耳を寄せてくる。 その肩に手を添えて引き寄せると、僕は彼女の頬にそっとくちづけをした。 彼女の視線が僕を捕らえ、揺れる。 これは何回目ですか? 僕の質問に、彼女は顔を伏せて……人差し指だけを立てて見せた。 ――心の底から認めなければ、彼女はこの螺旋から降りられない。 この力を終わらせるには、彼女にとっての鍵である「彼」その彼が、涼宮さんを選ぶか……自分は選ばれな いという現実を受け入れるしかない。 そして、現在彼は長門さんに好意を寄せている。 ……ですが、果たしてもう1つの選択肢を選ぶという事はありえるのでしょうか? 今の僕には、それは不可能だとしか思えない。 彼女に心奪われている、僕には。 ーー な~んだか……おかしい感じがするんだよね。 ーー 「すみません、何から何まで」 そう言って頭を下げているのはキョン君だ。 可愛い長門っちの為だもん、これくらい気にしない気にしない~。 とりあえず必要だと思った家電製品が運び込まれて、殺風景だったその部屋にもそれなりの生活感が感じ られるようになった。どうやって生活していたのか分からない程空だったクローゼットにも、今は大量の服 が並んでいる。 「ありがとう。頑張って働いて、料金は必ず支払うから待っていて欲しい」 ここ最近、急に笑顔を見せるようになった下級生は丁寧に頭を下げている。 お金なんて別にいいのに。でも長門っちがそうしたいならそうしよっか。 「する」 変な気遣いされても嫌だもんね。 あ、長門っちが一晩あたしの思い通りになってくれるなら御代はチャラでもいいんだけどな~? むしろ 追加料金発生? 言いながらその陶器の様に白い肌に手を伸ばしていくと、 「「つ、鶴屋さん?」」 本気で止めようとするキョン君とみくるの声が重なった。 ちぇ~。 「じゃあ、また明日学校でな」 「おやすみなさい」 まったね~。 小さく手を振る長門っちの姿が扉によって見えなくなり、ゆっくりと廊下を歩き始めたキョン君の背中を あたしは軽く叩いた。 ねえねえ、キョン君はお泊りしていくつもりじゃなかったの? 「な? 何を言ってるんですか!」 あれ? 違ったの。おかしいな。 「違います」 真っ赤な顔で足を速めるキョン君。早く行っても、君の性格ではエレベーターで先に行っちゃう事はできな いのにね。 予想通り、エレベーターの中で開扉延長ボタンを押してくれているキョン君の横を通って、あたしとみくる は小さな個室の中に辿り付いた。 扉が閉まり、あたしは再び口を開く。 ねえキョン君、最近ハルにゃんと何かあった? 「ハルヒとですか?」 そうっさ。ハルにゃん、時々すっごく切ない目でキョン君の事見てるよ。 「……」 「私も、最近の涼宮さんの様子はおかしいと思います。話をしていても上の空の事が多いし、なんだか色々と 我慢しているみたいだから」 みくるの話を聞いた時も、キョン君に驚いている様子は無かった。 ……この感じだと、キョン君も気づいてはいたみたいだね。 それなのに今までみたいに行動に移らないのは……ん~どうなんだろう、やっぱり長門っちのせい? 沈黙が支配する個室は静かに最下層に辿り着き、扉は開いた。 「じゃあ、俺はここで」 何とか笑顔を浮かべて手を上げているキョン君に、 うん、おやすみっさ! 「おやすみなさい」 あたしはなるべく元気に手を振ってあげた。 可哀想な事をしちゃったかな? 切なげな後姿の少年を見送りつつ、あたしは久しぶりに溜息なんて物を ついてしまったよ。 みくる~。 「はい」 ……ん~……ハルにゃんとキョン君ってさ、どうしても付き合わなきゃ駄目なのかい? 「ええ?!」 目を丸くして驚くみくるは、それっきり黙ってしまった。 誤魔化すのが下手なみくるだから、キョン君とハルにゃんの間を取り持とうとしてるのくらいわかっちゃ うさ。でも、キョン君はどうやら長門っちを選んじゃいそうだし……。みくるがハルにゃんに拘るのは何故? それが何か大切な事なのかな? ……まあ、色々あって言えない事なんだろうけどね。 「あの……鶴屋さん」 何か言おうとしたみくるだけど、あたしはそのまま続けた。 あたしはさ、ハルにゃんも長門っちも古泉君もキョン君もだ~い好き。だから、あたしはみんなに幸せに なって欲しいな~って思うにょろ。……でも一番好きなのはみくるだからさ、みくるが辛そうな顔をしてる のはあたしも辛いな。 隣に居るみくるの手を握りしめると冷たかったみくるの手に自分の温もりが伝わって、ゆっくりと暖まっ ていく。 あたしの顔を見つめるみくるは何か言おうと口を動かして……でも結局何も言えなくて……。 その顔が泣きそうになるのを見て、あたしはみくるの頭をそっと撫でてあげた。 ーー 心から思ったの、「明日」が来て欲しいって。 ーー 眠れない夜を数えるのは止めてしまった。 だって、同じ夜を何度も過ごした場合、どうカウントすればいいのかわからないんだもの。 古泉君と3回目に行った日の夜、あたしはベットの中で色んな事を考えていた。 この力の意味とか、キョンとか有希の事とかみくるちゃんや鶴屋さんの事……そして、古泉君の事。 彼は優しい。 誰にでも優しい。 もし、みくるちゃんが泣いてたら……そうね、古泉君なら気の聞いた言葉で慰めてあげるんでしょうね。 キスの一つくらい、誰にだってプレゼントしそうな気がする。 キョンだったら……あいつは鈍いから、どうしていいかわからないままおろおろしてそう。 最初にこみ上げて来たのは笑い―― 頼りないあいつを思い浮かべて、間違いなく安らいでいる自分を感じるから。 次にこみ上げてきたのは悲しみ―― わかってる、古泉君がここまであたしに付き合ってくれているのは仲間とか、単純な好意だけじゃない だろうって事くらい。 でも……でも。 最後に浮かんできたのは怒り―― 自分への、怒り。 寝転んだまま時計を見ると、時計の針は0時を差していた。 少し迷ったけど、枕もとの携帯電話を引き寄せて履歴を呼び出す。一番最初に出てくるのは、古泉君。 あたし、何を言うつもりなんだろう? プルルルル―― こんな時間にかけて迷惑じゃない。 プルルルル―― 嫌われたいの? プルル――「はい、古泉です」 ……ごめん、寝てたよね。 「いえ、ちょうどテレビを見ていた所です」 本当? その割にはテレビの音が聞こえないんだけど……まあいいわ。 嘘に気づいても、自分の為についてくれている嘘なら騙されてあげなくちゃね。 あのさ……その。 「はい」 ……今日の映画、面白かったよね。 「ええ、とても楽しかったです」 本当? 「本当です」 そっか、うん。ありがとう。 沈黙。 ……こんな馬鹿げた電話なのに、彼は何も怒らない。 ねえ、古泉君。 「はい」 もしも……また昨日をもう一度やり直す事になってしまって、今喋った事を覚えていられないとした ら古泉君はどうする? 「え?」 何を言ってるんだろう? あたし。古泉君のどんな言葉を望んでいるの? 「そうですね。何も言わないと思いますよ」 ……そっか。 「本当に伝えたい言葉は、自分でも一生覚えていたいですから」 よくわからないけど、自分の事を恥ずかしいと思ったのはこの時が初めてだった。 ……ねえ、古泉君。 「はい」 今から言う言葉を古泉君は覚えていられないかもしれないけど、あたしはずっと覚えててくれるって信じ て言うから。そのつもりで聞いてね? 「わかりました」 ベットから起き上がり、暗い部屋の中を歩く。 今なら、言える気がする。自分の本心が。 無言のままあたしの言葉を待つ古泉君に、あたしは思いを告げた。 あたしは……うん、キョンの事が好きなの。 自然に出ていたその言葉は、誤魔化しようの無い自分の本心だった。 そしてね、みんなも大好き。一緒に居て凄く楽しいし、これからもずっと一緒に居たいって思うの。でも、 あたしはそれを一度、自分で壊してしまったんだと思う。キョンだけが欲しくて、他のみんなを否定して…… そんな自分自身も、最後には否定してしまった気がする。 今なら、少しだけ思い出せる気がする――部室で泣いているあたしと、震えているキョン。 だからあたしは、キョンと有希が仲良くなるのが怖かったけど何もできなかった。簡単な事なのよ、本当に キョンの事が好きなのなら、その思いを告白すればいいだけの事。でも、どうしてもそれができないの。だか ら、こんな回りくどい酷いやり方で2人の邪魔をしてるだけ……こんなのあたしらしくないよね。 「涼宮さん」 それまで、何も言わずにじっと聞いてくれていた古泉君があたしの名前を呼んでくれる。 その声が優しかった事に、あたしは泣きそうになってた。 「これまで秘密にしていましたが、僕は貴女が好きなんです」 あまりにもあっさりとした言葉に、あたしは古泉君が何を言っているのか本気でわからなかった。 ……えっ? 「僕も、この言葉をずっと覚えていてもらえると信じて話します。貴女にSOS団の部室へ連れてこられた日 からずっと、涼宮さんの事が好きでした。そして彼の事が好きなのだと聞いた今も、僕の気持ちに変わりはあ りません」 あまりにも、彼の言葉は真っ直ぐだった。 あ、あたしはその……。 古泉君の気持ちには応えられない、自分には好きな人が居るのだから。 告白なんてこれまでに何度となくされてきた事で、その全てをあたしは断わって来た。なのに、古泉君の その言葉に返す言葉がどうしても出てこない。 どうして? 彼が優しいから? ううん、違う。優しいだけの男なんて願い下げ。 それに、そんな男なら今までにも何人だって居た。 じゃあ何? 誠実だから? かっこいいから? 秘密を知ってくれているから? ……あたしはキョンが好きなのに……理由を無理やり探してでも古泉君の告白を断わりたく……ない? なんとか返事をしようと思うのに、焦ってどうしても言葉は出てこない。 早く、早くしないと断わったって思われちゃう? 何か喋ろう! 何か! 携帯電話を片手に焦っていたあたしの目の前に、その人は立っていた。 あたしの部屋は狭い個室で、当然鍵はかけている。だからあたしは目の前に立つその人が人間だとは思えな くて、幽霊か目の錯覚だと思った。 眠っていたのならわかるけど、起きていたあたしに気づかれないまま部屋に入ってくるなんてできるはずが ない。ベットの下には人が入れるスペースなんてないし、隠れるような場所はこの部屋に無いもの。 理性がその存在を人間だと認める前に、あたしの意識は消えた。 ――侵入者は、崩れ落ちるハルヒの体を音も無く受け止める。 気を失ったハルヒの手から携帯電話が落ち、床に当たって軽い音を立てた。 ―― ……悪夢、としか言いようがありません。いえ、悪夢ならいつかは醒めるのですからまだ救いがあります。 ―― 沈黙してしまった涼宮さんの返事をじっと待っていると、僕の耳に聞こえてきたのは彼女の声ではありま せんでした。 「古泉」 その声を、僕は知っていた。……知っていたからこそ、絶望した。 この声は……森さん? 「機関からの指令を伝える。そのまま自宅で待機しろ、外出は禁止する。以上だ」 待ってください! 何故貴女がそこに居るんですか? 涼宮さんは? 「わかっているだろうが指令違反は処罰対象になる、許可が出るまで部屋にいろ」 森さん! ――電話はそこで切れてしまった。 すぐにかけ直したが、聞こえてくるのは電源が入っていないというメッセージのみ。 念の為にかけてみた森さんの携帯電話も同じだった。 どうして機関が? 何故、涼宮さんを? これまで、閉鎖空間や涼宮さんに関する計画については、必ず僕の元へも事前に連絡がきていた。しかし 今回はそれがない。という事は……涼宮さんを保護する目的ではなく……考えている時間はない、とにかく 涼宮さんの所へ行かなければ! 上着を掴んで玄関に辿り着いた時、何故か僕の足は止まった。 ……僕が行ってどうなるんだ? これが本当に機関の決定だというのならば、僕にできる事など何一つ存在しない。 何故なら、閉鎖空間の中ならともかく、現実世界において機関の力がない僕はただの高校生でしかないの だから。彼女の家に行こうと思っても機関の車は使えないし、タクシーを使おうにもタクシー会社には全て 機関の手が回っている。 警察に連絡すれば? だめだ、機関が警察に分かるような稚拙な作戦を企てるはずがない。 視界が急に揺れて体が床に当たって痛みを感じた時、僕は自分が玄関に倒れたのだと理解した。 そして気づいてしまった、自分の心が折れてしまっている事にも。 涼宮さんは彼を選んだ。 僕は彼女を守れなかった。 そして、機関という力も失った。 僕に出来る事は……もう。 上着のポケットの中にある携帯電話を取り出して、僕は彼の名前を呼び出した。 短い通信音の後、 「おい古泉、何があったんだ? 朝比奈さんが電話でハルヒに何かあったって言ってるんだが、混乱してる みたいで何を言ってるのかさっぱりわからないんだ」 聞こえてくる彼の言葉に対して、自分が不思議なほど冷静だったのを覚えています。 涼宮さんが捕まりました、機関の手によってです。 「は? なんだそりゃ」 理由や状況は僕では何もわかりません、すみませんが涼宮さんをお願いします。 まだ通話口から何か聞こえていたけれど、僕は通話を終了して手から携帯を放した。 ……よく、この部屋がわかりましたね。 どれだけ時間が過ぎたのだろうか。 気がついた時、僕の目の前には彼が立っていました。 彼女に選ばれた「鍵」である彼が。 無言のままで俯いている僕に対して、沈黙に耐えかねたのか彼が躊躇いがちに切り出した。 「ハルヒの事だけどな」 涼宮さんの名前が出ても、床を見つめたまま座っている僕に彼は続ける。 「お前の言うとおり家から居なくなったらしい。鶴屋さんと朝比奈さん、あと長門を通じて喜緑さんにも 色々調べて貰ってるんだが、まだてがかりは見つかっていない」 そうですか。 僕の返事がそれだけで終わった事に、彼は驚いているようです。 ……ですが、僕にはもう貴方に伝えられる情報は何もないんですよ。 「なあ古泉、お前の居る機関ってのが何かしたにしても、お前自身は関係ないんだろ? 何をそんなに落 ち込んでるのか知らないが」 僕は関係ない。 その言葉が、彼の言った言葉の意味とは違う意味で感情を動かしていた。 顔を上げた僕を見て、彼は言葉を無くしている。 ……余程、酷い顔をしているんでしょうね。 溢れてきた感情が言葉になり、涙と一緒に零れ出した。 涼宮さんに迫った危機が機関の行動による物だとわかっても、僕は何もできなかった……できたのは、 貴方に電話する事だけ。たった…それだけ。僕は涼宮さんを守れませんでした。 自分を頼ってくれていたのに、自分の思いを伝えたばかりだというのに。 顔を上げているだけの力も無く、再び床へと視線が落ちる。 今の僕は涼宮さんが望んだ超能力者なんかじゃない。何もできない、ただの人間です。 ……そして認めなくてはいけない。僕は貴方の代わり、「鍵」にはなれないのだという事を。 彼の手が僕の襟に伸び、無理やりな力で僕は引き起こされた。 僕を見る彼の顔には怒りが浮かんでいる。 無理もありませんね。彼には何の力も無いのだと知っていたのに、これまで僕は何度も彼を頼ってきた んですから。そんな僕が、自らの非力を嘆いて座っているだけ……殴られた所で、文句も言えません。 僕は、でかい口ばかり叩く最低の人間だったんです。 自嘲気味にそう言い捨てると彼は何もせずに僕の襟から手を離し、再び僕の体は床へと崩れ落ちた。 僕には、殴るだけの価値もない……という事ですか。 ――やがて、じっと床を見つめたまま座っていた僕に彼は当たり前の様に言った。 「気が済んだか」 その声は怒りでも蔑みでもない、部室でいつも聞いていた彼の声。 え? その言葉の意味がわからずに顔をあげると、そこにはいつもの退屈そうな彼の顔があった。 「だったら行くぞ」 彼はそう言い残し、僕の返事を待たずに部屋から出て行こうとしている。 行くぞって、何処へですか? 僕の言葉に振り向き 「決まってんだろ? ……ハルヒを探しにだ」 彼は平然とそう言い切った。 涼宮ハルヒの愛惜 第9話 ハルヒの選択 前編 ~終わり~ 後編へ続く その他の作品
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今俺は病院のベッドの上で点滴を受けている。 何のことはない。 ちょっとしたストレス性のなんとかかんとかで、胃の一部が溶けただけだ。 何が原因かと言えば、まぁ、色々原因は思い当たりすぎて何とも言えない。 クラスでの俺の扱いが、色々な事件の末に妙な風になっていること。 隠していた秘蔵AVの配置がズレていたこと。 妹に、知らなくて良い余計な予備知識が増えていたこと。 後は、来年に控えた大学進学に関してが少々重荷だったことくらいだろうか。 そんなこんなで、ともかく今俺は病室で安静にしたいわけだ。 「おい、ハルヒ」 「なによ」 「俺は今から横になって、ゆーっくり休みたいんだ」 「あらそう」 「だから、いいかげん俺のベッドの横でくつろぐのは止めてくれ。胃に悪い」 だが、この女……涼宮ハルヒはそんな俺を一向に構う様子もなく、 来て早々「倒れた団員を気遣うのは団長の務めよ!」と言ったきり、横に居座り続けて、 お見舞いの品を勝手に食ったり、俺が休んでいた間のSOS団での事件を勝手に報告していたりする。 看病というのか病人をオモチャにしにきたのか、ハッキリ言って区別はできない。 「なによ。せっかく人がお見舞いしに来ているんだから、もっと丁寧に扱いなさいよ。 だいたいちょっとしたストレスで胃に穴が空くなんて、軟弱過ぎるの! そんなんじゃあ現代社会で生きてけないわよ!」 ベッドの横の椅子でふんぞり返るハルヒ。 こいつの小言を聞いていると、冗談抜きで胃がキリキリと痛む。 なまじ頭だけは良いから、妙に重々しいことを言ってきて精神衛生上よろしくない。 「これからは、社会に出ても恥ずかしくないくらいSOS団総出でビッシビシしごいてあげるわ! 覚悟して……」 「やめろ」 思わず、吐き捨てるような口調になる。 「………誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」 「なによ。あたしのせいだって言うの?」 「あ………その、いや…………」 これは、明らかに俺の失言だった。 無論この胃潰瘍はハルヒのせいではない。 あいつらとの活動に、俺が負荷を感じたことがないと言えば嘘になるが、 まさか胃に穴が空くようなレベルじゃあない。 「そんなことは全然、まったくない……が…………」 俺の言葉は尻すぼみになった。 ハルヒが下から睨め付けるように俺を見ていたからだ。 ある意味、ヘビに睨まれたカエルの気分……というのがこの心境を表すのに適している。 「あたし、帰る」 「ちょ、ハルヒ! 待て! 待ってててて痛てててて………ッ」 急にかかったストレスで、俺の胃は悲鳴を上げた。 ハルヒはそんな俺を振り返ることもなく、椅子を蹴って立ち上がると、 一目散に病室から出て行ってしまった。 無論、胃痛で動けない俺は、その後ろ姿を見送ることしかできなかったわけだ。 思えば、これがあのドタバタした1日の伏線になっていたわけなのだな。 後々から考えてみれば。 ◆◆間◆◆ あれから一週間ほどして、俺は学校に復帰した。 胃に空いた穴もほとんど回復し、長門、朝比奈さん、古泉のお見舞いのお陰もあって、フィジカルもメンタルも絶好調となったからだ。 しかし問題は一つ。 あれ以来、俺は涼宮ハルヒとは会っていないし、一秒たりとも会話をしていない。 「よ、よう」 「………………」 復学早々朝一番の挨拶にも、ハルヒは反応してこなかった。 「まだ怒ってるのか?」 「………………」 返事をしないのも予想の内だ。 今までのハルヒの行動を念頭に置いて考えると、一度キッチリ頭を下げておけば、 どんなにつむじの曲がったハルヒでも、帰りにSOS団の部室に行く頃には機嫌を直してくれると予想はついている。 俺は席に着くと、早速机に手を突いてハルヒの顔を真っ直ぐに見た。 「すまなかった。あの件については俺も」 「いいの。謝らないで」 「悪……ん?」 言葉を途中で切られて、俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。 「な、なんだって?」 「謝らなくていいの。気にしないで」 この時の俺はかなり動転した顔をしていたと思う。 あの涼宮ハルヒともあろう者が、相手に謝罪もさせずに物事を許したことがあったか? いやない(反語)。 「一体どんな風の吹き回しだ。俺はちゃんとこうやって謝罪を」 「いいのよ。それより聞いてくれるかしら?」 涼宮ハルヒが大人しい。声を荒げたり茶化したりすることなく、 むしろ冷静に俺に語りかけてくる。あまりに……そう、あまりに不気味だ。 以前どこかで巻き起こった猛烈な勢いの台風が、町を丸々ぶっ潰しておきながら俺の家だけを無事に残しておく時くらいに有り得ない状況である。 視線を時折外に向かわせたり、教室に戻したりと挙動不審気味なのが尚更におかしさを煽る。 「な、なんだよ」 「………何でも言うこと聞いてあげる」 「は?」 「あたしが、何でも言うこと聞いてあげる」 何の冗談だ、と笑い飛ばそうとした。 笑い飛ばそうとしたのだが、ハルヒの目は本気だった。 茶化すには余りにも真っ直ぐにこっちを見ていたのだ。 「…………ど、どういうことだ?」 「ッ!」 ガタン! と椅子を蹴って立ち上がると、ハルヒはドタバタと駆けながら教室を出て行ってしまった。 「おい、待てハルヒ!」 俺が声を上げたことで、教室中の視線が俺に向いた。 俺は気まずい思いをしながら、視線から逃れるように席に戻るしかなかった。 「何でも言うことを聞くだと………どういうことだ?」 ◆◆間◆◆ ハルヒはその後、1限から5限までの授業を丸々ボイコットした。 鞄を机に置きっぱなしだったから部室にでもいるのかと思ったが、 ガチャッ 「…………」 「なんだ。長門しかいないのか」 放課後部室に入ってみれば、居るのは定位置で読書にふける長門の姿だけだった。 ハルヒどころか、我らがメイドの天使様であらせられる朝比奈さんも、どうでもいいが古泉もいない。 「どうやら、ハルヒは完全にフケちまったみたいだな。何か知らないか?」 「知らない」 「そうか」 長門の回答は簡潔だった。恐らく全く心当たりがないのだろう。 それなら仕方がない、とばかりに俺はオセロを引っ張り出して一人オセロで暇を潰すことにする。 ハルヒが部室にないとなれば、これ以上探そうにも探しようがない。 となれば、いつも通り部室にいてハルヒが来るのを待った方が得策というわけだ。 そして、暇を潰すにも、よっぽどのことがなければ長門の読書を邪魔しないという暗黙の了解がある。 お茶も、朝比奈さんが来てから淹れて貰った方が美味しい気がするしな。 取り敢えず、まずは白と黒の駒を盤の上に並べて、さっそくオセロを……。 「……伝えることがある」 「うぉ!?」 俺はびっくりして手に持っていた駒を取り落とした。 いつの間にか、読書を止めた長門が右隣に立っていたのだ。 しかも顔の位置が近いぞ。 「なんだ。驚かしてまで伝える内容なのか」 「そう」 「どんな内容なんだ」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 「………なんだと?」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 聞き覚えのあるセリフだ。 「長門、それはハルヒに何か吹き込まれたんだな」 「肯定する。涼宮ハルヒが一限開始前に通達してきた」 「『俺の言うことを何でも聞くように』……てか?」 「そう」 ハァ、と思わず溜息が漏れた。 長門を巻き込んで、あいつは一体なにがしたいんだ。 あいつの思いつきは毎度毎度突拍子もないが、今回も突拍子がなさすぎてわけがわからん。 「気にせんでもいいぞ。どうせハルヒの戯れ言だ」 「そうはいかない」 「ん?……そうなのか?」 「そう」 長門が更に一歩前に出てきた。 互いの顔が数センチという近さで、これはちょっと近すぎる。 思わず目を逸らしてしまう。 「な、なんだ。そんなの本気にする必要はないんだぞ。だいたいいつもの気まぐれじゃないか。 てきとうにやって話を流しちまえばいいんだよ。そんなにいちいち真面目くさってやってたら大変だ」 そこまで一気に喋って、チラ、と長門の方へ視線を一瞬戻したが、 長門の顔は依然として超至近距離にある。 「だいたいだな、俺が言うことを何でも聞くって言ったら……例えば、俺がココでキスをしろなんて言ったら……」 「キスを実行する」 俺が視線を戻した時、既に、長門との距離はほとんどゼロだった。 ふっ、とお互いの息がかかり、そのまま長門のくちびるに俺のくちびるが触れ……そして、すぐに離れた。 「終了する」 ほんの1秒未満だったが……これは、確実に………その………。 「な、長門?」 「問題ない。わたしは命令を実行しただけ」 長門はいつもの定位置まで戻ると、鞄に本を仕舞い、それを持ってドアの所まで行った。 「長門……もう、帰るのか?」 「…………………」 長門は答えず、そのままドアを開けて廊下の方へ出て行ってしまった。 終始無言のままの長門だったが、その無表情には微かに別の表情があった。 長門の表情を見分けるのには、俺にも一家言ある。 あれは………確かに、少しだけ、長門の顔は赤かった。 ドタン バタバタバタバタッ 遠くで誰かが階段から落ちたらしい音が聞こえる。 程なく、我らが天使朝比奈さんがやった来たが、彼女によると、 「いきなり長門さんが階段から滑り落ちてきて、びっくりしちゃいました……。 あんなに慌てた長門さんを見るのは初めてですよ。 顔だけはずっと冷静な顔だったのが、ちょっと面白かった……なんて言ったら失礼ですけど」 だそうである。 ハルヒのヤツ、長門に無駄にエラーを蓄積させるとは、まったくけしからんヤツである。 本当にそう思う。 キスできてラッキーとか、そんなことは全く思わないわけではないが、ともかくけしからんヤツである。 ◆◆間◆◆ 朝比奈さんが来て、つつがなく着替え終わった後、 俺は、定番のメイド服に身を包んだ天使の淹れたお茶を美味しく頂戴していた。 今日のお茶はナントカカントカというお茶で、あつ〜い温度で作る渋〜いヤツなのだそうだが、 俺には彼女が淹れてくれるというだけで全てが甘露なので、ともかくおいしく頂戴するわけだ。 「いや〜、まいどまいどすみません」 「いいんですよ。これもオシゴトですから」 別段、必ずSOS団に従事しなくてはならないわけでもないのに、それに全力を注ぐ彼女のなんと健気なことか! 俺は感涙を禁じ得ず、ついでにお茶をもう一杯所望してしまうのである。 「そう言えば、またハルヒが妙なことを思いついたらしいですね。 朝比奈さんは何か聞いていませんか?」 「あ、朝ホームルームが終わった後で聞きました。 その……キョンくんの言うことを、必ず聞くようにって言われてます」 やっぱりか。 「いったいどんなつもりなんでしょうね。 さっきも長門が……その……よくわからないことを言っていて、びっくりしましたよ」 先程のことを思い出し、俺が渋い顔をしていた時、 バァン! と勢い良くドアが開いた。 「やほー! みんなげんきにょろ?」 ドアから飛び込んで来た、このハルヒ並のハイテンションなお嬢さんは、何を隠そう鶴屋さんだ。 SOS団の準団員にして常識派の筆頭。そして古泉の組織のパトロンの家系のお嬢様という、 肩書きでも中身でもテンションでも、全てにハイの付く朝比奈さんの同級生だ。 「どうしたんです? 朝比奈さんならそこに……」 「いやいや。今日はみくるに用事じゃなくて、キョンくんの方に用事があるかなっ」 「お、俺ですか?」 鶴屋さんと言えば朝比奈さん。 そういう図式が頭の中でできていた俺には、それだけで十分不審な空気を感じ取ってしまう。 「いったい、どんな御用です?」 「今日は、キョンくんの言うことをなんでもきいちゃうよっ。ハルにゃんとの約束だからねっ」 ビンゴだ。 「またそれですか。どんなことでも、って言われても困りますよ」 「どうしてかなっ?」 「俺だって心身ともに正常な青少年です。そういう所を配慮していただかないと……」 話半ばで、俺の手は鶴屋さんにガシッと掴まれた。 「つ、鶴屋さん?」 「つまり、キョンくんがしたいのはこういうことにょろ〜?」 鶴屋さんが手を引っ張り、そのまま朝比奈さんの……その、胸部に俺の手を押し当てた。 「ふぇ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「ちょ、つ、つ、鶴屋さんこれは!?」 「ふっふっふっ……めがっさ柔らかいにょろ?」 三人の声が交錯する。 その間、俺の右腕は……その……たっぷりとした重量を手の平に感じていた。 柔らかさはマシュマロ、固さはゴム鞠、そんな二律背反が混在した感触だ。 コンピ研の部長が以前この状況になったことがあったが、これは確かに万死に値する価値がある。 「やや、やめてください鶴屋さん!」 俺はそう叫んだ。さすがの俺もずっとそうしているわけにはいかない。 鶴屋さんの手を振り払い、天使のバストから無理矢理手の平を引き剥がす。 「何のつもりですか! いくらハルヒからの命令だって言っても、これはひどすぎます! 朝比奈さんだって、ほら、何か言ってやってくださいよ!」 俺が憤慨しながら声を上げると、 「でも……涼宮さんの命令だから……」 「しかたないかなっ。これはこれで面白いしね!」 と頬を赤らめたり、ケラケラと笑っていたりする。 ダメだ。真意が読めん。 「今、キョンくんがして欲しいというなら、あたしで良ければキッスくらいしてあげるよん?」 「待って下さい。俺はキスをして欲しいとも身体を触りたいとも思っていません」 「おりょ。キョンくんはお堅いな〜」 「お堅いお堅くないじゃないんです。変だと思いませんか? そんな命令?」 思わず二人に対して声を張り上げてしまう。 この時ばかりは、俺もちょっとばかり腹が立っていたのだ。 「それは……涼宮さんがキョンくんのことを思って、のことですよ」 「どういうことですか、朝比奈さん?」 「だって、キョンくんが倒れたのはストレス性の胃潰瘍だったという話で、 涼宮さんも、それでとっても悩んでいたみたいでしたし……」 「あの時のハルにゃんは、長いこと悩んでいたからね〜。それでみんなで人肌脱ごう、ということになったのさっ」 つまり、これは俺にストレスが溜まらないように……という対処ということなのか。 逆に気をつかってストレスが溜まっている気がしてならないがな。 「だ、か、ら。遠慮しちゃダメにょろ〜。 あたしので良ければ、今ならめがっさ格安で! ちょっとだけ体験させてあげてもいいかなっ」 鶴屋さんが俺の手を取って、そっと胸元に押しつけてきた。 朝比奈さんとは違って、こう、良く締まった身体の上に乗ったソレのアレな感触がジンワリと伝わってくる。 「だ……」 「だ? 何にょろ?」 「ダメです!!」 俺は乱暴に手を振り払った。 「あららら、嫌われちゃったかな?」 「そういうんじゃありません! 俺は……その……」 上級生二人が、俺の次の言葉を微笑をしながら待っている。 「す、すみません! ちょっと失礼します!」 顔を真っ赤にした俺は、全力で駆け出してぶち当たるようにドアを開けると、 廊下を駆け抜け、裏庭の方へと走り込んで行った。 ◆◆間◆◆ 「はぁ………はぁ………」 普段しない運動をしたものだから、肺がぜいぜい言っている。 ちょうど良いところに裏庭用のイスとテーブルが設置してあったので、そこにどっかりと腰を据えた。 なんだ。この状況はいったいどこのエロゲーだ。 いや、俺自身全くエロゲーをやったことがないわけではないので、思い当たるタイトルはいくつかあるが。 「まったく……ハルヒのヤツも変なことばっかり、考えやがって……」 「いや、いいんじゃないですかね。あながち間違った策でもないと思いますよ」 独り言のつもりだったのだが、背後から返答があった。 「どうです。そこのコーヒーですが一杯飲みませんか?」 紙コップを二つ持ってきたのは、いつものうさんくさい笑顔を貼り付けた古泉だった。 俺は無言でカップを受け取って、一口グイと煽る。 「部室では大変だったみたいですね」 「……見てたのか」 「いいえ。しかし、あなたの声は裏庭にも聞こえましたからね。大体予想はつきます」 冷たいコーヒーをもう一口あおり、火照った身体をクールダウンさせていく。 「ハルヒの思いつきも、ここまでくるとちょっとばかり迷惑だな。 さっきお前は間違った策じゃないとか言っていたが、本当にそう思うのか?」 「思いますね」 「何故だ」 「そうですね……簡単な話ですよ」 両手を方の高さに上げて「やれやれ」のジェスチャーをした古泉が話を続ける。 「あなたは今回、潜在的に受けていたストレスによって胃潰瘍になったわけです。 それを完全な形で回復させるには、あなたが何に潜在的ストレスを感じていたのかを特定し、 それが二度とあなたにストレスとならないようにしなければなりません。 専門家でもない我々は、怪しいと思われる可能性を、一つ一つ潰していかねばならないわけですよ」 「………なるほど」 一応、筋は通っているように思える。 「で、その対策の一つが『何でも言うことを聞く』なわけか」 「そうです。あなたは基本的に涼宮さんに行動を制約されていますからね。 一度、あらゆる制約からあなたを開放してみよう、というのが今の涼宮さんの考えだと思われます」 ふむと唸って俺はコーヒーをもう一口飲んだ。 「古泉。お前はハルヒに何か言われたのか?」 「えぇ。『決してあなたには逆らわないように』と申し使っていますよ」 「やっぱりか。まぁ、お前なら特に気兼ねもないからその点は安心だな」 「そうでもありませんよ?」 その時、俺は古泉の目が、普段のニヤけた目とは違う形をしていたのを見ていた。 何か……アマゾンや熱帯雨林の特集をやる動物番組で見たことのある、エサを目の前にした肉食動物の様な目をしている。 「ど、どういうことだ古泉」 「あなたが僕に対して、無意識下でストレスを感じていないとは言えません。 それを確かめるだけです」 明かにおかしな雰囲気を感じ、俺は即座に立ち上がろうとしたが……立てない。 何故か足に力が入らない……なんだこれは? 「古泉……いったいこれは……」 「組織の方から支給された物でして。依存性はありませんし副作用もありません。 ちょっとの間身体に力が入らなくなるだけです」 古泉が一口も口を付けなかったカップを置いて、俺の目前に移動してくる。 「可能性は全て潰しておかねばなりません。 例えば、あなたがわたしに性的な興奮を潜在的に感じていたという可能性も。 これは致し方ないことなのですよ。涼宮さんのため、と思って少々ガマンして頂きましょう」 あのニヤニヤした顔が俺の、目と鼻の先にある。 ヤツの鼻息が俺の顔にかかってきてこそばゆい。 待て。それは明らかに近すぎる距離じゃあないか。 「まさか……古泉、お前まさか………」 「大丈夫。優しくするから身を任せてください、キョンたん」 キモイ! あの古泉がキョンたんなどと言ってくる、この状況が気持ち悪い! それに何だ、何故俺のネクタイをゆるめてシャツの中に手を入れてくるんだ。 やめろそこは違う断じてそんな所にストレスは感じていないズボンの中に手を入れるなちょアッー! 「アナルだけは! アナルだけは!」 思わずそう言って俺は泣いた。 童貞だけど処女じゃない。 そんなアンビバレンツなキャラクターをこれから一生背負っていく自信は、俺にはない。 「やめろ……やめてくれ……」 「そんなに嫌がると燃えちゃいますね。可愛いですよキョンたん」 「ひぃぃぃぃ………誰か………誰か!」 その瞬間、ゲ泉の手がパッと俺から離れた。 俺の可哀想な菊の花も、侵攻から開放されてやっと通常運行になる。 「しくじりましたね。完全に人払いはしたと思いましたが……そちらが干渉してくるとは予想外です」 ゲイは裏庭に植えられた木の下を見つめていた。 そこにいたのは、現生徒会書記であり旧SOS団依頼人だった喜緑さんだ。 両手を後に組んで、一人静かにこちらを見つめていた。 いつの間に現れたんだ! 「なんのつもりですか? 穏健派のTFEI端末が独断で動くとは初めて知りましたよ」 「涼宮ハルヒに急激な変化を起こされては困るの。あなたの趣味で涼宮ハルヒを暴走させて欲しくないだけよ」 そのまま、喜緑さんが何事か……長門の『呪文』のような物を唱えると、 急に俺の萎えていた手足に力が戻ってきた。 手も……もちろん足も動く! 「う、うわぁあぁぁぁぁーーーーーーーーッ!」 「キョ、キョンたん! ぐッ!?」 俺がゲイ野郎を突き飛ばしてその場を飛び退くと、ゲイはそのまま後にぶっ倒れて尻餅をついた。 俺は後も見ずに裏庭からの脱出にかかる。 「これはしてやられました」 「あなたは尻をやるつもりだったのでしょう?」 「つまり、これはそういう意味合いにおいてはあいこ、ということでしょうかね。 僕とあなたはお尻あい、と」 「そうなりますね」 「フフフフ……」 「うふふふ……」 バカのような会話を背後に聞きながら、俺はその場を駆け去っていった。 ◆◆間◆◆ 「はっ………はぁ………はぁ…………」 俺は息も絶え絶えになりながら、商店街を歩いていた。 寒い冬の最中であるのに、商店街まで一気に駆けていた俺の身体は異常な熱を持っている。 今ならきっと頭の上に湯気が見えるぞ。 なにせ、学校から商店街までほぼノンストップで駆けてきたんだからな。 「はぁ……はぁ……………はぁーーーーーーーーーーー……」 大きく溜息。 ハルヒは俺のストレスを開放する、などと言っていたが、開放されてるのは他のヤツばかりじゃないか? 俺自身が解放されている気がちっともしない。 「これは……早急に手を打つ必要があるな。直に発生源を叩く必要があるぞ」 呑気に相手の気が変わるのを待っているわけにはいかない。 普段SOS団の活動で使う喫茶店を前に、俺は携帯電話を取り出した。 ◆◆間◆◆ 「なによ」 「なにじゃない。俺が呼び出した理由くらい、もうわかってるだろ?」 俺は携帯電話でハルヒを呼び出した。 最初はゴネていたハルヒだったが、俺が「言うことを必ず聞くんだろ?」と言った途端、 即座に「わかったわよ」と言ってココまでやって来た。 そして現在、SOS団御用達の喫茶店で、テーブルを挟んでこうして俺とハルヒが向かい合っているわけだ。 「理由って?」 「みんなに言って回ったんだろ。『俺の言うことを何でも聞くように』ってな」 「そうだけど、それがなによ?」 くちびるをアヒルの口みたいに尖らせて、ハルヒは不満げな声を上げる。 「あんたの体調が悪いって言うから、ストレスにならないようにやったことよ。 あたし悪くないもん」 「別にお前が悪いとは言ってない。ただ、そのせいで周りが色々騒がしくてかなわん」 「あたしにどうしろって言うのよ」 「簡単だ。即刻前言撤回すればいい。そうすりゃ丸く収まる」 「嫌よ」 フン、と鼻を鳴らすと、ハルヒは窓の外に目線を投げて言葉を吐き出した。 「絶対嫌」 「………おい、ハルヒ」 「嫌だったら嫌。絶対ヤダ!」 「俺の言うこと聞くんだろ?」 自分で作り出した矛盾にはまったハルヒは、苦り切った顔をして窓の外を見ていた。 恐らく、古泉は今頃組織のバイトが急増して大変なんだろうな。 「ハルヒ。これは俺の命令だ。みんなに言った言葉を撤回するんだ」 「………………」 ハルヒはだんまりを決め込んでいる。 「その代わりだな……」 「………聞こえない! 全然聞こえないわ!」 いきなりそう言うと、ハルヒはガタンとテーブルを蹴る勢いで立ち上がった。 一口も口を付けられていなかったコーヒーがひっくり返り、テーブルに黒いシミが広がっていく。 この騒動に、周囲の目線も一気にコチラを向く。 「待て、落ち着けハルヒ」 「いいわよもう! あたし帰る!」 怒鳴るようにそう言うと、ハルヒは早足にその場を去っていった。 周囲の視線や、こぼれたコーヒーのこともあって俺が一瞬躊躇していると、 ガッシャァーーーーz________ン!! と、隣の席に四輪駆動のごっつい車が突っ込んできた。 「な………」 細かく砕けた窓ガラスが飛び散って、俺の背後を掠めていった。 喫茶店内も悲鳴やわめき声に包まれる。 「ハルヒ……!?」 慌てて入り口の方を見たが、ハルヒは持ち前の駿足でもって駆け去った後のようだった。 まるでタイミングを見計らったような事故っぷりじゃあないか? 俺は呆然とするレジ係を急かして会計を済ませ、急いで外に駆け出す。 ガシャン ギャー ドスンッ ドカ ハルヒを行方は捜すまでもなかった。 まるで道しるべでも作ったかのように、道なりに事故が多発している所がある。 なんだ……あいつはついに世界の崩壊でも願ったのか? その時、ポケットに入っていた携帯電話が鳴った。 「もしもし、キョンたんですか? 古泉です」 「切るぞ」 「冗談ですよ。それより、涼宮さんの状況がかなり悪いことを理解しているか心配で電話したんです」 「黙れゲ泉。貴様の声を聞くと耳が腐る」 「やはり理解されてなかったようですね。今、その辺りで事故が起こっているはずです」 「そうだが、そうだったとしても貴様は黙して語るな」 「その理由は、おわかりですか?」 「ハルヒが世界の崩壊でも願ったのか? それより他のヤツに代われ。貴様は死ね」 「あの……いいかげん、僕も泣きますよ?」 ゲイの声が軽く泣きそうになっていた。 「よし、死ね。それで事故とハルヒが願ったことと、どういう関係がある」 「……………………」 「言え、さもないと貴様がゲイだと学校中に言いふらして回るぞ」 「涼宮さんは『死にたい』と思ったんですよ。あなたのためにやったことが裏目に出て、更に怒られてしまった。 穴があったら入りたい。恥ずかしい。死んでしまいたいと思った……その結果が、今巻き起こっている事故の嵐です」 「つまり……それに巻き込まれて死んでしまいたい、ってことか」 「あなたなら上手くまとめてくれると思ったんですがね。どうやらそうもいかなかったようで」 「切るぞ。時間がない」 「ところで、今これを教えて上げたわけですから僕の……」 通話を切った。 「余計なこと考えやがって……」 俺は事故の起こった通りを急いで駆けていった。 途中、電柱の後で「死にたい……」とベソベソ泣く茶髪のゲイがいたような気がするが、恐らく気のせいだったのだろう。 ◆◆間◆◆ 転倒、転落、衝突、居眠り運転、うっかり、よそ見、物を落としたり、放り投げたり、火を付けたり、 その他考えられる限りの事故を起こした商店街を駆け抜け、 俺はついに商店街を抜けて住宅街に入ってしまった。 住宅街でも、犬が吠えて駆け抜け、自転車が電信柱に突っ込み、猫がひっくり返り、通り一面阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。 俺は息を切らして足を止め、ここで一つの事実に気が付くわけだ。 「お……追いつかない……」 持久走、短距離走、障害物走でもトップを誇る涼宮ハルヒの駿足に、運動不足の俺が追いつくわけがない。 いつ事故に巻き込まれてケガをするかもわからないこの状況で、ウサギとカメの昔話を実践している場合じゃないんだ。 この状態になったハルヒが居眠りをしてくれるとも限らないし、居眠りの代わりが事故だったら尚更実践できるわけがない。 「ドラ○もんみたいな扱いで悪いが……ここは一つ長門に……」 そう思った時、見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。 「も、もしもし?」 「涼宮ハルヒの追跡経路をナビゲートする」 長門だった。 「長門か!? どうしてこんなタイミング良く……」 「急がないと間に合わないから」 「そうだな。今はどうこう言っている場合じゃねぇ。じゃないとハルヒが事故にあっちまうからな」 「それだけとも言えない」 「? どういうことだ?」 「見つければわかる」 「で、どうやってハルヒを見つけるんだ」 「あなたと涼宮ハルヒの体内に位置探知用のナノマシンは注入済み。ナビゲートは簡単」 い、いつの間にそんな物を仕込んだんだ。 今日は手首を噛まれた思い出もないぞ。 「あなたには部室で」 部室……あの時のキスはそう言う意味があったのか! 流石長門だ。この時の事を想定して既に手を打ってあるとは。 でも、それならいつもみたいに手首を噛むだけでも良かったんじゃないか? 「進路方向、次の角を左」 無視か。今はそんなことを言っている場合でもないしな。 俺は即座に駆け出して左に曲がった。 ◆◆間◆◆ 「ハルヒ!」 驚いたことに、ハルヒは商店街から住宅街へ出ると、そのまま住宅街をグルリと回って再び商店街へ戻ってきていたらしい。 長門の説明では何だかんだの心理作用がナントカカントカの回帰を起こしたらしいのだが、 ともかく、俺は長門のナビゲートによって、再び商店街へ戻ってきたハルヒの進路方向へ先回りしていた。 「っ!!」 「こら、逃げるんじゃない!」 商店街中程の店の軒下に隠れていた俺は、商店街の大通りに駆け込んできたハルヒの前に奇襲的に登場し、 抱きつくようにして無理矢理ハルヒの足を止めさせた。 聞いたところによると、ハルヒはスピードを微塵も落とさずに走り続けていたらしい。 遠くから声をかけようものなら、あの駿足であっという間に遠くへ逃げられてしまう。 というわけで、俺は商店街の入り口にあった本屋(自転車が突っ込んで片づけで忙しそうだった)で立ち読みをするフリをしていたわけだ。 「放して! 放しなさいよ!」 「放してたまるか! 絶対に放さないからな!」 この寒い中、お互い汗を撒き散らしながら取っ組み合う。 こっちだって命懸けだ。 あいつが呼び寄せていたものが、やっと見えてきたわけだからな。 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/ (^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /) 二コ ,| r三 _」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 ´ (__,,,-ー ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| タンクローリーだ。 『危険物注意』の看板のひっついたガソリン満タンのタンクローリーが、商店街の向こう側に見える。 どうやら妄想は一人事故にあって痛い思いをするというレベルを越えて、周囲を巻き込んで盛大に散るというレベルになったらしい。 こいつをネガティブに暴走させ続けると、どっかの国が打ち落とした人工衛星の破片さえ呼び込みかねんぞ。 「命令だ! 俺の話を聞け! まずはそれからだ!」 「嫌だったんでしょ? だったら命令なんて聞かない! 聞いてやらない!」 ちくしょう、こいつ完全にヘソ曲げてやがる。 しかも本気で暴れるから、いつ振りほどかれるかわかったもんじゃない。 今逃げられたら、後に迫ったタンクローリーにペシャンコにされた上に大爆発だ! 「ハルヒ……いいか、命令だ!」 「嫌よッ!」 「ハルヒ、俺にキスをしろ!」 「いや……何?」 ハルヒがやっと暴れるのを止めて、俺の目を見た。 「お前が俺にキスするんだ」 「な、なんでそんなこと……」 「他の誰も俺の命令を聞かなくてもいい。お前だけに聞いて欲しい」 俺の目線は、ハルヒを真っ直ぐに見ていた……わけではなかった。 実のところはその先に見えるタンクローリーを見ていた。 タンクローリーは、既に、ハルヒの背後百メートルを切った所にあったのだ。 「キョ……バ、バカ! 何言ってんのよ!」 「ハルヒ」 俺はそれだけ言うと、ハルヒの胴に回していた手を解いて、手を顔に添えた。 「バカ……バカキョン………」 タンクローリーはグングンとその距離を縮めていた。 もうハルヒの背後五十メートルの所にあった。 追記すると、ハルヒの目は潤んでいたと思うような気がする。 「お前がするんだぞハルヒ。命令なんだからな」 「………わかったから、目を瞑ってなさいよ」 「丁寧に言ってくれ」 「目を瞑って。おねがい」 タンクローリーはすぐそばに迫っていた気がする。 だが、その後どこでタンクローリーが止まったかまではわからない。 それから数分、俺は目を瞑りっぱなしだったからだ。 ---- 「キョンさ。あたし今日掃除当番だから、先に部室行っててくれる? 後で行くから」 「おう、わかった。掃除サボんなよ」 「サボらないわよ。あんたも活動サボらないでよね」 「おいおい、他に言うことがあるだろ?」 「……楽しみにしているんだからね」 俺はそう言って、ニヤニヤしながら教室を出た。 今のハルヒの一言に、教室中の人間が仰天していたようだ。 谷口は目も口も全開で仰天していたし、あの国木田でさえも目を剥いていたんだからその衝撃の具合もわかるってもんだ。 「きょ、キョンくん?」 「朝比奈さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所で?」 教室を出た所で、ドアの脇に立っていた朝比奈さんに気が付いた。 二年生であり、全校生徒の憧れの的でマドンナで天使の朝比奈さんがこんな所にいるのは、確かに不思議と言えば不思議だ。 「うん………あの……キョンくんを待っていたんだけど……」 うん。明日俺の下駄箱にカミソリ入りの呪いの手紙が入っていてもおかしくないセリフだ。 今の俺には微塵も怖くない所だがな。 「あの……これって、本当にキョンくんと涼宮さん?」 そう言って見せられたのは、携帯電話の画面だった。 画面には、タンクローリーの乗り入れられた商店街を背景に、抱き合ってキスしている俺とハルヒの姿が写っている。 「どうしたんですか、これ?」 「あのね、これが学校中にメールで出回っているらしいの。その……『涼宮ハルヒ熱愛発覚!!』って」 「なーんだ、そんなことですか」 俺はアッハッハと笑い飛ばした。 朝比奈さんも、それにつられてエヘヘと笑う。 「そうですよね。怪文章の類ですよね、こんなの」 「いえいえ。ただの事実だから笑ったまでですよ。 な、ハルヒ? 俺達ラブラブだよな?」 朝比奈さんと廊下の生徒達、そしてクラス中が再び仰天するのを感じながら俺は堂々と胸を張った。 「そ、そうだけど、それがなによ……」 「もっと他に言うことがあるだろ?」 「ら……ラブラブよ! あたしはキョンが大好きッ! これでいいでしょ、もうっ!」 ふふ、と俺は笑って肩をすくめた。 「何の問題もありませんよ、本当」
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 翌日の朝。俺は懐かしい早朝ハイキングコースを歩いて学校へと向かっていた。 とは言っても、向こうの世界じゃ毎日のように往復していたけどな。 北高に入り、下駄箱で靴を履き替えていると、 「おっ。キョンくん。おはようっさ。今日もめがっさ元気かい?」 「キョンくん、おはようございます」 鶴屋さんの元気な声と朝からエンジェル降臨・朝比奈さんの可憐なボイスが俺を出迎えてくれた。 何か向こうの世界じゃ何度も聞いていたのに、帰ってきたという実感があるだけで凄く懐かしい気分になるのはなぜだろう? 靴を履き替え終わった頃、長門が昇降口に入ってきた。 「よう、今日も元気か?」 「問題ない」 声をかけてやったが、やっぱり帰ってきたのは最低限の言葉だけだ。ただし、全身から発しているオーラを見る限り 今日の朝は気分はそこそこみたいだな。 階段を上がっている途中で、なぜか生徒会長と共にいる古泉に遭遇する。 「やあ、これはおはようございます――どうしました? 何かいつもと雰囲気がちょっと違うように見えますが」 「朝からお前と遭遇して、せっかくの良い気分がぶちこわしになっただけだ」 「これは手厳しい」 ふと、俺はあることを思い出し、古泉と生徒会長を交互に見渡して、 「とりあえずご苦労さんとだけ言っておく」 「はい?」 俺の台詞の意味がわからず、呆然とする古泉と生徒会長を尻目に俺は自分の教室へと向かった。 そして、教室に入ってみれば、ハルヒのしかめっ面が俺をお出迎えだ。 少しはこっちの気分を読んで欲しいぞ、全く。 「遅い! せっかく良いもの見つけたから、朝ご飯食べながら学校に走ってきたのに!」 「お前の都合でどうこう言われても困るぞ」 団長様のありがたい怒声を聞きつつ、俺は自分の席に座る。 見ればハルヒは机の上にチラシを沢山並べていた。どうやら何かの催しの案内らしいな。今度は何だ。 全米川下り選手権にでも丸太に乗って参加するつもりか? 「ほら見てよ、これって凄くおもしろそうじゃない? ついでにSOS団のアピールもバッチリだわ! これは――」 意気揚々と語り始めるハルヒ。俺はそれを耳から垂れ流しつつ、ちょっとした考え事に入る。 最初に言っておくが、これは昨日の夜家に帰って風呂に入りながら考えた俺の妄想だ。 俺はずっと向こう側の世界に行って、SOS団を作り上げるまで試行錯誤しまくってきたわけだが、 実際のところ不可解な点もたくさんあるのが実情だ。 特に情報統合思念体については明らかに矛盾している点がある。連中は長門によるハルヒの力の使用は二度あって、 一度はハルヒのリセットで隠蔽、もう一つは直前で阻止したようだったが、今俺が帰ってきた世界の長門の世界改変分が カウントされていないのはなぜだ? 最初に聞かされた話じゃ、ここの連中とあっちの連中も結局は同じもののはずだからな。 そう考えれば、俺の知る限り長門による力の行使は三回あったはず。これはあきらかに矛盾している。 じゃあ、実はハルヒの勘違いで、こことあっちの連中は実は別物と言う可能性はどうだろうか? 一応パラレルワールドみたいなものだし、 その分だけ情報統合思念体が存在していてもおかしくはない。が、それはそれで矛盾がある。見たところ同じような考えを持った 存在だったことを考えれば、この世界で長門が世界改変を実施したら、同じように長門の初期化、さらにハルヒの排除という 流れになるんじゃないだろうか。向こうの連中は過剰反応しただけで済ませるにはどうにも腑に落ちない。 まあ、なんだ。前置きが長くなったが言いたいことはこういうことだ。 俺が去った後にリセットされてやり直されている世界――それが今俺のいる世界なんじゃないかってね。 つまり俺はずっとここに至るまでの軌跡をずっと描き続けてきたってことだ。 情報統合思念体にも実は俺たちとは違うが時間の流れみたいなものがあって、あの交渉の結果、 この世界では長門の世界改変がスルーされた。約束通りに。 それだといろいろつじつまの合うことも多い。 ハルヒがどうして宇宙人(長門)・未来人(朝比奈さん)・超能力者(古泉)・異世界人(俺)がいることを望んでいたのか。 それは最初からSOS団を作るために、探していたんじゃないだろうか。だからこそ、不思議なことを探してはいるものの、 全員そろっている現状に密かに満足しているのではないのか。それだと唯一いないと言われている異世界人は、俺だし。 それに…… ―――― ―――― ―――― なーんてな。考えすぎにもほどがある。本当にそうなら、今目の前にいるハルヒは自分が神的変態パワーを持っていることを 自覚していることになっちまうが、それなら最初に世界を作り替えようとしてしまったこととか、元祖エンドレスサマーとかの 説明が全くつかなくなってしまう。自覚してあんなデリケートな性格になっているんだから、あえてやるわけがない。 普段の素振りを見ても、そんな風にはとても見えないしな。自覚しているハルヒを知っている身としては。 ……ただし。 ――あんたの世界のあたしがうらやましい。何も知らずにただみんなと一緒に遊んでいられるんだから―― この言葉が少々引っかかるが。 まあ、どっちにしろ凡人たる俺にそんなことがわかるわけもない。一々確認するのも億劫だし、面倒だ。 現状のSOS団に満足しているのに、わざわざヤブを突っつく必要なんてあるまい。 俺の妄想が本当かどうかはその内わかるさ――その内な。この世界も別の神とか宇宙的勢力とか出てきて、 まだまだ騒がしい非日常が続いて行きそうな臭いがプンプンしているし。 「ちょっとキョン! ちゃんと聞いているの!?」 突然ハルヒが俺のネクタイを引っ張ってきた。やれやれ、妄想もここまでにしておくか。 俺はハルヒの手をふりほどきつつ、 「で、次はどこに連れて行ってくれるんだ?」 その問いかけにハルヒはふふんと腕を組み、実に楽しそうな100W笑顔を浮かべて、 「聞いて驚きなさい。次はね――」 ~完~ 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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ある日の事だ。 教室に行くとハルヒが先に来ていた。 「よ、おはよハルヒ」 「キョン」 「ん?なんだ?」 「キョンキョンキョンキョン」 「一体どうしたんだハルヒ?」 「キョーンキョンキョン」 これは何事だ? するとハルヒはルーズリーフを取り出しこう書き殴った。 『何しゃべっっても「キョン」になっちゃう。どうしよう』 何がどうなってるんだよ、おい・・・ ふと廊下に目をやると古泉と長門が立っているのを発見した。 俺は二人に相談しようと立ち上がったがブレザーの裾をハルヒに掴まれ動けなかった。 「ちょっと、トイレに行ってくるだけだから」 「・・・キョン~・・・」 そんな涙ぐんだ瞳でかつ上目遣いで見ないでくれ。 思わず抱きしめたくなるじゃないか。 「お前ら、朝っぱらから何してるんだ?」 出た。アホの谷口の登場だ。 「なんだ?プレゼントでもせがんでるのか?」 「違う。どうしたらそういう発想になるんだ?」 「またまたー。で、涼宮はキョンに何を欲しいってせがんでるんだ?」 「キョン」 教室中が静まりかえった・・・ 無論、俺も例外ではなく固まっていると俺の携帯が鳴り出した。 はっとした俺は携帯を取り出し開いた。 携帯のディスプレイには「新着メール1件」と表記されていた。 メールは古泉からだった。 『どうやらこちらに来るには無理があるみたいですので、簡潔に申し上げます。今回どうやら涼宮さんは 「キョン大好き!!いっその事、世界が全部キョンだったらいいのに」と考えたようです。』 あぁ、そこまで思われてるなんて俺は幸せ者だなぁ等と思いながら古泉に返信した。 『一体どうすりゃいいんだ?』 1分後・・・ あ、返信来た。 あいつ、メール打つの早いな 『涼宮さんに、そんなに沢山いたら困ると思わせるのがベストでしょう』 『具体的には?』 … 『あなたという存在が一人だからこそ価値があると思わせて下さい。よろしくお願いします』 と言われてもな・・・ あ、一つ簡単な方法があるな。 しかし、これをやると・・・ あぁ、こうなりゃヤケだ。 「なぁ、ハルヒよ。俺は世界中がハルヒばっかりだったらいいなと思ったことがあるんだがな」 「キョン?」 「あくまで俺が好きなのはお前という涼宮ハルヒだから沢山のハルヒが居たらたった一人のお前を見つける事が出来ないと思うんだがどうだ?」 「キョン!!あたしもキョンが大好き!!」 「ん?言葉が元に戻ったな」 「あれ?ホントね。これもキョンの愛の力かしら」 この後、散々クラスメイトにイジられたのは言うまでもない・・・ はぁ、やれやれ・・・ 終わり
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今日のハルヒは少し変だ。 どいつよりも一番長くハルヒと付き合ってきた俺が言うのだから間違いない。 いつもは蝉のようにうるさいハルヒが、今日は何故か静かだし、 顔もなんだか考え事をしているような顔だ。 「どうしたハルヒ。」 俺は休み時間になってからずっと窓の外を眺めているハルヒに話しかけた。 「なにがよ。」 「元気ないじゃないか。」 俺がそう言うと、ハルヒは眉と眉のあいだにしわをつくって、 「私はいつでも元気よ。」 「そうかね。そうは見えないんだがな。」 ハルヒは俺の言葉を無視し、窓の外に目をやり、 「今日も来るんでしょうね」 「どこにだ。」 「SOS団部室によ。」 いちいち聞くこともないだろうよ。 「ああ、行くよ。」 ハルヒは窓のそとにやっていた視線を俺の目に向け言った。 「絶対よ。」 今日の授業も全て終わり、俺はいつものようにSOS団部室―実際は文芸部室なのだが―に向かった。 ドアをコンコンとノックする。これもまたいつも通りだ。 「どうぞ。」 朝比奈さんの声でドアを開けると、ハルヒはもう既に団長席に座っていた。 「遅いじゃない。」 何を言ってる、いつも通りだ。 「来ようと思えばもっと早く来れるでしょう?まったく、意識が薄いのよ。 部室への集合にも罰金制度を取り入れようかしら・・・。」 なにやら不穏なことをぶつぶつ言っている。おいおい勘弁してくれ。 休日のオゴリだけでもきついのにそれに上乗せされちゃあ、たまったもんじゃねぇぜ。 「なら、明日からはもっと早く来るって約束しなさいよ。」 へいへい。だが、どうせ早く来ても俺のやることといったら古泉とのオセロぐらいしかないのだが。 「今日は負けませんよ。」 古泉は長テーブルにオセロのボードを広げて既にスタンバイOKのようだ。 お前はそう言って毎回負けるんだよなぁ。 俺と古泉がオセロをしている間、ハルヒは珍しくいつものようにパソコンをつけずに、 俺と古泉の勝負風景をじっと眺めていた。 「なぁハルヒ。」 俺は視線はオセロのボードに落としたまま言った。 「なによ。」 「見られてると非常にやりにくいのだが。」 「プロの将棋師とかはたくさんの人に注目されてる中でやるのよ? これぐらい耐えられなくてどうするのよ。」 どうもせん。大体、俺はプロじゃないし、今やってるのは将棋でもない。オセロだ。 そんなツッコミを入れつつ、俺は古泉の白を黒に変える。 「いやぁ、参りました。完敗です。」 古泉は両手をあげて言う。 「古泉くん弱いわねー。」 ハルヒはパイプ椅子から立ち上がった。何だ? 「私がやるわ。古泉くん代わって。」 マジで? 「どうぞどうぞ。でも、彼は強いですよ。」 お前が弱いだけだろうが。 ハルヒは古泉から譲りうけた席にでんと座り、 古泉はさっきまでハルヒが座っていた席に腰掛けた。 「さぁ、キョン。始めるわよ。私が黒ね!」 そう言ってハルヒはボードに一手目を置いた。 やれやれ。 結果。 俺が勝った。 「何よコレぇ!キョン!もう一回よ!」 またかよ。お前は勝てるまで続けるような気がする。 今度は俺が先手で始まった。 そして結果。 俺が勝った。 「なーにーコーレー!!なんで私が馬鹿キョンに負けるのよ!!」 毎日糞弱い古泉と鍛えているんだ。馬鹿にしないでほしい。 「もう一回よ!!」 ・・・やれやれ。 「やった、勝った!キョン、あんた大した事ないわねー。」 俺に5回も負けといてよく言えるな。 「あんたはいつも古泉君と鍛えてるでしょー?私はオセロなんて滅多にやらないもん。」 なんじゃそりゃ。小学生か。 ふと、横を見ると古泉がニヤニヤしながらこちらを見ていた。何が面白いんだ。 「古泉くん!」 「なんでしょうか?」 「他にゲーム持ってないの?なんかこう、SOS団みんなで遊べるようなもの!」 そんなにたくさんゲームを学校に持ってきてるわけないだろう。 「ありますよ。」 あるんかい。 古泉はバッグのファスナーをあけると、中からずるずるとなにか取り出した。 「何だそれは?」 古泉はニコリと笑って見せた。 「人生ゲームです。」 「人生ゲームね!面白そうじゃない!有希!みくるちゃん!あなた達も参加しなさい!」 ハルヒの顔は輝いている。朝の鬱モードはもう既にどこかに吹っ飛んでしまったらしい。 「ふぇ?」 編み物をしていた朝比奈さんは、何の話か聞いていなかったらしく、きょとんをした表情で顔を上げる。 「だから、人生ゲームよ。有希ちゃんも、ほら。」 ハルヒが言うと、長門は読んでいた本をぱたんと閉じ、すたすたと俺の横の席まで歩いてきてすとんと座った。 「始めるわよ。みくるちゃんと古泉くんも席に着きなさい。」 朝比奈さんと古泉も着席し、ゲームが始まった。 「やった、結婚よ!いいでしょ、キョン。羨ましい?」 羨ましくない。ボード上の世界で結婚してもしょうがないだろう。 「でもあんた、現実でも、結婚はおろか彼女すらできないんじゃない?」 痛いところを突くな。と、次は俺の番か。 俺は出た数だけ駒を進める。 ん?「株で1000万儲けた」、ねぇ。本当にあればいいのにな。 現実はそんなに甘くないのだよ。 最終的に勝者になったのは長門だった。 その次からハルヒ、俺、朝日奈さん、古泉の順だ。 古泉お前、全員でやってもやっぱり弱いのな。 「面白かったわ!古泉くん、明日はあのスゴロク持ってきてちょうだい!」 あの スゴロク・・・?っていうとあれか。 大晦日のときにやったSOS団オリジナルの、やたらと俺いじめのマスが多いスゴロク。 あれはもうやりたくないな・・・。 それから数十分して。 ぱたん。と、長門の本が閉じられた。 「今日は皆で帰るわよ!」 ハルヒは両手を腰に当てて、偉そうに言った。 「すまん、ハルヒ。俺は今日早めに帰って見たいドラマがあるんだ。」 「何言ってるのよ。そんなの録画しとけばよかったんじゃない。 いい、キョン?団長の命令は絶対なのよ。例外は認められないわ。」 ハルヒは眉を吊り上げながら、俺に顔をぐいっと近づけて言った。やれやれ。 帰り道、ハルヒはいつも以上にやたら活発だった。 急に競争をしようだとか、荷物持ちのじゃんけんをしようだとか小学生レベルの事を言い出したり、 どこから持ってきたのか、眼鏡を長門にかけさせて遊んだり、 朝比奈さんの胸を・・・っておい!!何をしているハルヒ!! お前がもし男だったら俺の鉄槌の拳が飛んでいたところだ。 しばらくすると、はしゃぎ疲れたらしい、歩くのがゆっくりになってきた。 「ハルヒ、お前今日はやけに元気がいいな。」 「そう?いつももこれぐらいだと思うけど。」 ハルヒは軽く息を切らしながらハイビスカススマイルで答えた。 「そうかねぇ。」 しばらくそのまま歩いていると、ハルヒは急に足を止めた。どうした? 見ると、ハルヒの顔は先程のようなスマイリーな表情ではなく、 真面目な顔になっていた。 「ねぇ皆。ちょっと聞いて欲しいんだけど・・・。」 他の奴等も足を止め、ハルヒに注目する。 「・・・・・・・・・。」 ハルヒはそのまま黙り込む。何だ、言いたい事があるなら早く言えよ。 「・・・・・・。」 ハルヒは小さく口を開いて声を発しようとしたが、すぐにやめて口を閉じた。 焦らすな。早く言え。 それからまた黙り込んだあと、急にまたさっきのようなスマイルに戻って口を開いた。 「いや、ごめん。なんでもないわ。つまらないことだから気にしないで。」 そう言うと、ハルヒはまた歩き出した。合わせて俺達も歩き出す。 ハルヒが前で歩いていた朝比奈さんのところに駆けていったのを見計らって、 古泉は俺に近づいてきて小声で言った。 「何かありますね。」 「・・・ああ。」 次の日、朝になるとハルヒはまた鬱モードに突入していた。 「よぉ。」 俺がバッグを机の上に置きながらハルヒに話しかけると、 ハルヒは挨拶を返すことなく言った。 「今日何日だっけ?」 そんなの前の黒板の日付みればいいだろ。 「3月・・・9日よね?」 ああ。 「金曜日よね?」 ああ。それがどうした。 「いや・・・、なんでもない。」 やっぱり何かあるな。昨日のハルヒも今日のハルヒも何かおかしい。 テンションも不規則に上がり下がりするし。 「ねぇキョン。」 ハルヒは顔をずいっと近づけてきた。 「今日も部室来なさいよね。」 昨日ハルヒに部室の集合に関してあーだこーだ言われたため、 今日はホームルームが終わってすぐに部室に向かった。 部室につくと、古泉がいつものニヤケ顔でパイプ椅子に座っていた。 「やぁ。」 古泉はさわやかな表情で慣れ慣れしく左手を挙げた。 「朝比奈さんはまだか。」 「えぇ。長門さんならいますけどね。」 古泉が片手で示した先には、いつも通り窓辺で本を読む長門がいた。 よくそんなに本ばかり読んで飽きないものだ。 「ところで、涼宮さんはまだでしょうか?」 「岡部に話があるんだとさ。まだ来ないと思うぞ。」 「それは都合がいいですね。話があるのですが、良いですか?」 なんだ。また何か面倒ごとに巻き込むつもりか? 「実は、昨日の夕方から夜中にかけて、大量の閉鎖空間が発生したんですよ。 はっきり申し上げますと、昨日の量は異常でした。 最近落ち着いてきたと思ってたんですがね。」 古泉はやれやれ、と肩をすくめた。 「・・・どういうことだ?」 俺は目を細めてみせる。 「わかりません。僕達の機関の調査では。」 古泉はニコニコ顔を崩さず言う。 「悩み事とかあるんじゃないでしょうか。 恋の悩みとか。ベッドの中であなたのことを考えるあまりに、 異常な量の閉鎖空間を生み出してしまった、とか。」 冗談にしては笑えないぞ古泉。 「完全に否定はできませんよ?フフフ。」 ・・・何が面白いんだ古泉。というか、何故俺なんだ。 古泉は心外そうな顔をして、 「おや?あなたもしかしてまだ・・・」 そこで言いとどまると、ニヤケ面を5割増しして言った。 「いえ、言わないでおきましょう。」 何故か古泉のニヤケが無性に憎く見えた。 「何にせよ、涼宮さんが何かに苛立っているというのは明らかです。 ただし、僕達と一緒にいるときは閉鎖空間の発生はみられないそうです。」 何に苛立っているというんだ。 「ですから、それがわからなくて困っているのです。」 昨日今日のハルヒの様子が変なのもそのせいか。 「そのようですね。ところで、昨日の話ですが。 昨日涼宮さんが言いとどまった言葉、なんだと思いますか?」 さぁな。 「僕達になにか伝えようとしていましたね。 あの表情からして、とても重要な話だと思うのですが、どうでしょう?」 知らん。 「全員に呼びかけたってことは、告白ってわけではないでしょうね。」 古泉はニヤケ顔を更に5割増する。なんだその目は。 「いえ、何でもありませんよ。フフフ。」 そう言って微笑む古泉の顔が不気味に見えて仕方が無い。 「あの涼宮さんが言いとどまった言葉、 あれが涼宮さんの苛立ちと関係があるような気がするのですが。」 さぁな。 「涼宮さんに聞いてみたら早い話ですがね。」 ハルヒが言いたくないことを無理に聞く必要も無いだろう。やめとけ。 「当然そのつもりですよ。まぁ、聞かずともいずれ彼女から話してくれるでしょう。」 そうだな。 「ヤッホー!!皆元気~?」 毎回のようにドアを蹴り破って登場した我らが団長。後ろには朝比奈さんがついている。 「みくるちゃんとそこの廊下であって、一緒に来たのよ。」 そうかい。 「さて、キョンと古泉くん。」 「なんだ。」 俺が言うと、ハルヒは少し顔をしかめ、ドアの方を指さした。 ああ、そういうことね。と、俺は朝比奈さんをちらりと見て、 ドアの元まで行き、一礼して部室を出た。遅れて古泉も。 「どうぞ」 朝比奈さんの声を確認し、ドアを開けると、意外な光景を目にした。 朝比奈さんがメイド服を着ているのはいつも通りだが、 なんとハルヒが朝比奈さんが前に着ていたナース服を着ているではないか。 「これはこれは。」 古泉も少なからず驚いているようだった。 「たまには私も着てみたわ。どう?」 ハルヒは得意気に髪を掻きあげた。 「いいんじゃないか。」 「何よ、その薄いリアクションは! もっとこう、『わー!ハルヒ可愛い!!』とかないの?」 わー。ハルヒかわいー。 「あーもう、イライラするわねー。もういいわ。」 とりあえず薄くリアクションしておいたが、内心、可愛いと思っていた。 朝比奈さんのナース姿も良かったが、ハルヒのそれもなかなかのものだ。 「僕は似合ってると思いますがね。可愛いですよ。」 「でしょ?ありがとう古泉くん。 やっぱりわかる人にはわかるのよねー。」 喜べハルヒ。その格好で秋葉原に行けば注目の的だぞ。 お前が言う わかる人 ってのもいっぱいいる。 …ところで、いきなりナース服を着だしたりだとか、 やはり最近のハルヒは変だ。 まぁいいか、楽しそうだし。教室のときのように鬱にしてるのより何倍もましだな。 「さぁ、スゴロクやるわよ、スゴロク!!古泉くん、持ってきてるでしょうね?」 げ。 「はい、もちろん。」 げげ。 古泉はバッグのファスナーを開けると、ずるずると大きな紙を取り出した。 やれやれ。 今日は日曜日、不思議探索パトロールをすることになってる日だ。 少しばかり寝坊した俺は、大急ぎで歯を磨き、髪を直し、服を着て待ち合わせ場所に走った。 他のメンバーは既に揃っている。 「遅い! 遅刻!! 罰金!!!」 このフレーズを聞くのも何回目だろう。これを聞くたびに俺の財布は打撃を受ける。 「と、言いたいところだけど、今日は私がおごるわ。」 は? 今ハルヒ何と言った?パードゥンミー?ワンモア、プリーズ? 「だから、今日は私がおごってあげるって言ってるじゃない。」 俺の耳は故障してしまったのだろうか。すまん、もう一度だけ頼む。 「今日は私のおごりよ!」 なんと。なんとなんと。思わず目眩がした。 今日は雪でも降るんじゃないか。いや、もう隕石が雨のように降ってきそうな勢いだ。 「何馬鹿なこと言ってんのよ。行くわよ、キョン。」 やはりおかしい。絶対におかしい。ハルヒがおごるなんて普通考えられない。 「キョンは何にするの?今日は高いもの頼んでもらっていいわよ!」 こんなことを言う事も、だ。どういう気の変わりようだ? 「何もないわよ。ほら、さっさと選んじゃいなさいよ。」 俺は何かハルヒの陰謀があるのではないか、と あえて高い物を選ばず、中くらいの物を注文した。 「何よ、遠慮することにないのに。」 何か怖くてな。すまん。 そして俺達は食事を済ませ、毎回恒例のくじ引きタイムに入った。 まず古泉が引く。無印。 次に朝日奈さん。無印。 次に俺。赤印 次に長門。無印。 「て、ことは私は赤ね。」 ハルヒは爪楊枝を掴んでいた手を開く。 爪楊枝の先には赤い印がはっきりと刻まれていた。 横に彼女を連れて、手を繋いで歩く。これはモテない男誰もが夢見ることだろう。 しかし、俺が手を繋ぐのではなく、手首を掴まれているのは何故だろう。 答えは簡単。連れている女が涼宮ハルヒだからだ。 「ちょっとキョン!もっとシャキシャキ歩きなさいよ! まず何処行く?デパートの食料品店で試食品でも食べ歩く? それとも、服でも買いに行こうか?今日はたくさんお金持ってきてるしね。」 どうやらこいつは 不思議 を探す気などさらさら無いらしい。 「どこでもいいぞ。お前のすきなところで。」 なんだか今日のハルヒの足取りは軽い。全身からウキウキオーラが放射されまくっている。 「あっそうだキョン!あたし観たい映画があるんだったわ! 一緒に観に行きましょう!」 映画・・・か。まぁ、このままハルヒに色々連れまわされるよりはいいだろう。 「決定ね!じゃあ行きましょう!」 俺は手首を掴まれたまま、映画館まで連れて行かされた。 なにやら甘ったるい匂いがするのは、受付の横の、なにやら色々飲食物を売ってる店のせいだろう。 「チケット2枚。」 俺がハルヒの分のチケットも買ってやっていると、ハルヒがポップコーンとコーラを持ってきて、 「はい、これ。あんたの分よ。私のおごりね。」 今日のハルヒは気前がいいな。 「それじゃあ行きましょう。早く行かないと始まっちゃうわ!」 そう言ってハルヒはまた俺の手首を掴んだ。やれやれ。 映写機がじりじりとスクリーンに映画を映し出す。 観ている内にわかったが、これは流行りの 感動モノ の映画らしい。 そして、今が一番泣き所のクライマックスのシーンだと思われるが、 どうした事か、俺の目からは涙の一滴すら落ちてこない。 もう少しピュアな心を持っていれば泣けるのだろうが、 俺の心はとっくにがさがさに荒んでいるのでな。 俺がふと横を見ると、意外な光景がそこにあった。 映画にかぶりついているハルヒの目に、若干涙が浮かんでいるではないか。 ハルヒはしきりに、服の袖で目を拭っている。 そのままハルヒはしばらくスクリーンを凝視していたが、俺の視線に気付くと、呆れ顔をつくって言った。 「何であんたこれで泣けないの?馬鹿じゃない?」 馬鹿ではないと思う。 外に出てみると、さっきは暗くてよくわからなかったが、ハルヒの目元が少し赤くなっていた。 「よかったわー、あの映画・・・。 あんなクオリティの高い映画はこの先そうそう作れないと思うわ。」 俺は全然泣けなかったけどな。 「あれで泣けないってのがおかしいのよ! あれで泣けないなんて信じられないわ。人間じゃないわ!」 おいおい、ついには人間以下かよ。 「まぁいいわ。楽しかったし。 おっと、そろそろ集合時間ね。待ち合わせ場所に急ぎましょう!」 ハルヒはそう言うと俺の手首を掴む。もうちょっと穏やかにできないのか。 せめて手を繋ぐとか。 「手、手ってあんたと?私が?」 冗談だ。本気にするなよ。 「あ、冗談ね。冗談か。 そうよね、あんたと手繋いで恋人同士だと思われたらとんでもないわよ!」 ハルヒは何故か少し動揺しながら言った。なにを焦ってんだか。 ハルヒが俺の手首を掴んでずんずんと商店街を行く。 と、ここで見慣れた二人組が目に入った。 「あ、谷口と国木田じゃねぇか。」 俺は足を止める。と、同時にハルヒも足を止めた。 「ようキョン。」 「奇遇だね、何やってたんだい、キョン。」 谷口と国木田は私服姿だ。お前等こそ男二人で何やってんだ? 「別に。ゲーセンとか行ってぶらぶらと遊んでただけさ。」 そう言うと、谷口は俺とハルヒを舐めまわすように見てきた。何だ? 「お前等は二人してデートか?いいねぇ、お熱くて。」 馬鹿言うな。これはSOS団の不思議探索パトロールだ。 「不思議探索パトロール?それって何するんだい?」 国木田の言葉に少し返答に困った。まさか 映画をみたりすること とは言えまい。 「街中で不思議な事が無いか探すんだよ。」 適当にごまかしておく。 「ふーん。変なことしてるねぇ。まぁいいや。じゃあ、僕達は行くよ。じゃあねキョン。」 「またな。」 「おう、じゃあな。あ、そうだ、待て谷口。チャック、開いてるぞ。」 「うわっマジかよ!!っていうか何で国木田教えてくれなかったんだよ!」 「え?それって新しいファッションかなんかじゃないの?」 「違ぇよ! やべーさっきこのままナンパしちまったよ。変態だと思われたかも・・・。」 「大丈夫だよ、谷口。君はもう顔が変態的だから。」 「えっ!?何それ?どういう意味!?」 「それじゃあね、キョン。」 「無視するなよ国木田!なんか今日お前悪い子だぞ!」 「じゃあな。国木田、谷口」 そう言って俺達は谷口達と別れた。 何やら後ろから「谷口ウザイ」という国木田の声が聞こえた気がするが空耳だろう。 集合場所につくと、既に他三人は揃っていた。 「ゴッメーン。遅れちゃった!」 ハルヒは右手を挙げる。 「それでは、また喫茶店に入りましょうか。」 本日2度目の喫茶店。今度もハルヒのおごりだった。 「それじゃあ、くじ引きしましょう。」 ハルヒは慣れた手つきで爪楊枝に印をつける。 まず長門が引いた。赤印。 次に俺。無印。 次に朝比奈さん。無印。やった朝日奈さんと一緒だ。 次に古泉。赤印。 「じゃ、私が無印ね。」 班分けは俺とハルヒと朝日奈さん、古泉と長門になった。 俺はいいのだが、古泉と長門は二人で話すことなどあるのだろうか、と少し心配になる。 ハルヒは今度は片手は俺の手首、もう片方の手は朝比奈さんの手首を掴んで歩き出した。 「出発よ!さて、キョン、みくるちゃん?何処に行きたい?」 俺はさっきも言っただろう、お前に任せると。 「みくるちゃんは?」 「えーっと・・・じゃあ、お茶の葉を買いに行きたいです。」 「じゃあまずはお茶の葉ね!行きましょう!」 やれやれ。 歩く事数分、茶葉の専門店みたいなところについた。 朝比奈さんは目を輝かせていたが、俺とハルヒはお茶の葉のことについてなんて全然知識ないから 店内に置かれた椅子にすわって暇を持て余していた。 朝比奈さんは店長さんとお茶の話で盛り上がっている。 少し耳を傾けてみたがさっぱりわからん。 しばらくして、 「お待たせしました。では行きましょう。」 楽しそうに駆け寄ってきた朝日奈さんは、茶葉の入った箱を抱えていた。 その後、デパートに行って試食品を食べ歩くなど地味ーなことをしたり、 ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーを楽しんだりした。 楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、時刻はあっという間に集合時間前だ。 「楽しかったわー。キョンのUFOキャッチャーの腕前は意外だったわねー。」 ハルヒは俺が取ってやった熊のぬいぐるみを両手に抱えて、もこもこさせながら言った。 ゲーセンは谷口達とよく行ったからな。SOS団に入ってからは、あまり行くことも無くなったが。 「私も楽しかったです。ありがとうキョンくん」 いや、俺にお礼を言われても困るんですけど・・・。 「あ、有希!古泉くん!」 まだ集合10分前なのに、長門と古泉は既に集合場所に到着していた。 やはりやることがなかったのだろう。 そしてその日はそのまま解散することになった。 涼宮ハルヒの異変 下
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「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「なぁ、今日の放課後だけどな、ナンパ行こうぜ!」 「…谷口、朝っぱらからそれかよ、一昨日も行っただろうがよ…もういい加減にしようぜ?大体うまくいった事無いだろうが…。」 「馬鹿!失敗を恐れてどうなるってんだ!挑戦無くして成功は無しだ!」 …朝から拳を握りしめて力説している谷口…はぁ…。 こいつとは入学からの付き合いでちょくちょく放課後や休みの日にナンパに付き合わされている。 結果は…言うまでも無いだろう…。 「悪いが今日はゲーセンに行くと国木田と話がついているんだ。またの機会にしよう。」 「…チッ。」 谷口は不満気に舌打ちした後自分の席に戻った。 …北高に入学してそろそろ一年経とうとしている。 この一年特に大きな出来事も無く、放課後や休日は友人とゲーセンに行ったりナンパに行ったりと平凡な生活を送っている。 「おはよう。キョン君。」 「ああ、おはよう朝倉。」 …朝倉涼子、このクラスの中心的存在で谷口曰わく AAランクプラス の美少女だ。 文化祭や体育祭などでも素晴らしいリーダーシップを発揮し、大いに盛り上げてくれた。 「朝からなんか憂鬱そうね?」 憂鬱?まぁ~毎日妹に乱暴な起こされかたをされてあの坂を毎日登れば憂鬱にもなるさ。 「ふふふっ。」 朝倉は軽く笑った後席へと戻って行った。 「憂鬱ね…」 俺は憂鬱と聞いて後ろの席に座っている人物が頭に浮かんだ。 涼宮ハルヒ 入学後の自己紹介でとてつもなくインパクトのある言葉を吐いた女だ。 容姿、スタイル、そのどちらも極上と言っても良い美少女だが…性格が捻れまくっている。 何度か話し掛けて見たが 「うるさい。」 の一言で切り捨てられている。 俺だけで無く、クラスの誰が話しかけてもその調子だ。 もうみんなこいつとコミュニケーションを取る事を諦めている。 涼宮ハルヒは今も俺の後ろで頬杖を突き憂鬱そうな顔をして窓の外を眺めている。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなで授業が始まった。 ~一限目~ 「…で、この場合はこの公式を使って…」 今日もいつもの通り授業は進んでいる…が…今日はなんか体調がおかしい…。 教師の言葉がまったく耳に入らない 別に夜更かしした訳じゃ無いんだがな。 俺がそんな事を考えていた時…それが来た… ―ー思い出せ!。 「…っ!」 …突如俺を幻聴と頭痛が襲った。 ―ー気づけ!ここは偽物だ! 「…ん!」 …なんだ…これは… 「ううっ…」 ガタッ 俺は突如襲った幻聴と頭痛とめまいの為机から床に転げ落ちた…。 「きゃ!」 「おい!どうしたキョン!」 …意識が…薄れて… …。 …。 …。 ………気がつくと俺は保健室のベットに寝かされていた。 俺は起き上がり、 「…なんだったんだ…あの頭痛…めまい…幻聴は…。」 そう思った時だった。 ――思い出せ! 「…っ!」 またか…何なんだよ…何を思い出せってんだ…。 ――気づけ! 「…ん!」 …俺は保健室を抜け出し…どこかに歩いている? 俺は…どこに向かっているんだ…? …。 …。 …。 俺は気がつくとある部屋の前に来ていた。 「…文芸部?」 文芸部…たしか部員0で来年入部者が居なければ廃部になるって話の? 「…。」 俺は誘われるように文芸部室へと入っていった…。 使われて居ない部屋…その部屋は埃臭く殺風景な物だった。 隅の方に本棚があり、机の上にかなり古いパソコンが置いてある…ただそれだけの部屋だった。 「…なんで俺はここに…んっ!!。」 …今までで一番強烈な奴が来た…ん?…今度は幻覚…か!? 俺の目の前に… 俺 が立っていた… ―いつまで呆けてんだ俺!いい加減目を覚ませ!覚えてるだろあの日々を?絶対忘れられる訳ねぇだろが! 「…あの…日々…?」 その瞬間頭に何かが駆け抜けた…。 「…SOS団…宇宙人…未来人…超能力者…涼宮ハルヒ…。」 …そうだ…。 「俺は…思い出した。」 そう、俺は完全に思い出した…くそっ!どうなってんだ一体…。 まて、落ち着け俺!俺は普通の奴よりもこの様な事態には耐性がある…そうだ、OK。 まずは整理してみよう。 …まず間違い無くここは改変された世界だ。 ハルヒは…居る。SOS団は結成していないが間違い無く居る。 古泉は…居る。この世界でも同じ様に転校してきている。間違い無い。 朝比奈さんは…居る。谷口が騒いでいた。間違い無い。 長門は…居ない!?…この世界での長門を認識した事は無い!…文芸部も部員0だ…間違い無い。 「…ハルヒも居る…朝比奈さんも古泉も…長門だけが…居ない。」 …何故長門だけが居ないのだろうか? それにこの事態を引き起こしたのた誰だ? ハルヒか?それともまた長門か? …そうだ!きっと長門は何かヒントを残しているはずだ! 俺は本棚へ向かい例の本を探した。 「頼むぜ………あ!」 俺は本をめくりそれを見つけた。 【パソコンの電源を2秒押し離す。それを三回】 例の栞にはそう書かれていた。 俺は直ぐにパソコンに向かい書いてある行動をとった。 ピッ パソコンは旧型とは思えないスピードで起動し…それが画面に映し出された…。 YUKI.N …もしもあなたが思い出した時の為にこのメッセージを残す。 「…ああ、思い出したさ。」 YUKI.N ここは改変された世界。でも涼宮ハルヒは同じ様に力を持ち、古泉一樹、朝比奈みくるも同じく力を持っている。 この事態を起こしたのは情報統合思念体。 …長門のメッセージ。 つまり情報統合思念体内部で大きな動きがあり急進派が力を持ってしまった。 ハルヒの起こす情報爆発を効率良く引き起こすのにSOS団は邪魔な存在と認識され、俺たちがSOS団を結成していない世界に改変した。 そして長門は消去され代わりに朝倉涼子が配置された。 …くそったれが! YUKI.N これは仕方の無い事。 それと、涼宮ハルヒに関わらない事を推奨する。 あなたと涼宮ハルヒが接触すると朝倉涼子が同じく行動を起こす確率が高い。 危険。 あなたはこの世界で生きて。 楽しかったありがとう。 「ふざけんなよ!」 YUKI.N …心残りは…もう一度あなたと図書館へ行きたかった。 「いや、行くぞ!一度と言わず何度でもな!」 YUKI.N それと…もう一度あなたに私の肉じゃがを食べさせてあげたかった。」 「…すまん。それだけは勘弁だ。」 YUKI.N …さようなら …。 …。 このメッセージが表示されるのは一度きりである。 エンターキーを押し消去を。 …。 …。 …。 「…ふざけるなよ。こんなので納得できるかよ!これで終わりだなんて!」 末尾でカーソルが点滅している…あの時と同じか…。 違うのは…あの時はこれを押したら改変世界から抜け出せたが今回は…終わりだ。 「くそっ!」 俺は近くの椅子を蹴飛ばした。 「長門…お前はそれで良いのかよ…」 …。 …。 ………!? 待てよ。何故エンターキーを押さないといけないんだ? 別に自動で消去してもかまわないだろ? …もしかして…。 俺はパソコンに戻り画面を再び見た。 「あの時は別のボタンを押したら終わりだった…今回は?」 俺は祈りを込めて…NOの意味でNボタンを押した。 カチ …。 …。 …。 YUKI.N プログラム起動条件・鍵をそろえよ。最終期限・今日。 …。 …。 …。 「…そうだよな…お前だってこのまま消えたくないんだな…任せろ!必ずあの日常を俺が取り戻してやる!」 …。 …。 …鍵か…前回と同じで良いんだよな。 今何時だ?後5分で昼休みか…。 俺はまず古泉の所に向かった。 …。 …。 ~9組~ 「すまない、古泉一樹を呼んでもらえないか?」 俺は適当に教室から出て来た奴にそう言った。 ほどなくして古泉が来た。 「僕に何か様ですか?」 古泉はこの世界でも変わらない0円スマイルでそう言った。 …あの時と同じで行くか。 俺は声を抑え切り出した。 「突然で悪いが…『機関』という組織に思い当たることはないか?」 「キカン…ですか?どういう字をあてるのでしょう」 …おんなじ反応しやがった。 でも俺は長門のメッセージで知っている。 「お前がここに居る目的は涼宮ハルヒの監視。そして閉鎖空間が現れた時お前はそこで暴れる『神人』を狩る超能力者だ。…違うか?」 すると古泉は俺の手を引き人気の無い場所へ連れて行った。 「あなた…何者ですか?」 古泉は笑みを消し俺にそう詰め寄った。 「…そうだな。今のお前からみたら 異世界人 って所だな。」 「…異世界人?」 「…詳しく話をしたい。放課後、文芸部室まで来てくれないか?」 「……分かりました。」 …古泉は戸惑いと警戒の目を向けながらも了承した。 …さて、次は。 …。 …。 ~2年のクラス~ 「すいません。朝比奈みくるさんを呼んでいただけませんか?」 俺は朝比奈さんのクラスから出て来た女子生徒にそう言った。 「…ふ~ん。あの子も人気者ねぇ…わかったわ。玉砕しても泣かないようにね。」 …なにやら勘違いしているみたいだが…まぁ良い。 ほどなくして朝比奈さんがやって来た。 みくる「あの~何でしょうか?」 ああ…この世界でも朝比奈さんの美しさは変わらない…早くまたあのお茶を飲める様にせねば! …おっと!本題本題。 「すいません…ここではちょっと…。」 周りからの好奇の視線が痛い…俺は会話が誰にも聞こえ無い位置まで朝比奈さんを連れて行った。 「突然ですが…あなた未来人ですね?」 単刀直入に俺は言った。 「ななな何をいいい言ってるんですか!そそそんな訳無いじゃないですか!」 …古泉と違い非常にわかりやすい。 「三年前…いや、もうすぐ四年前か。大きな時間振動が検出され、その中心に涼宮ハルヒが居た。 あなたがこの時代に来た目的は涼宮ハルヒを監視する為…違いますか?」 「…あなたは…いったい…。」 「詳しい話をしたいので放課後文芸部室に来ていただけませんか?」 「……はい。」 朝比奈さんもOKだ。 最後はハルヒ…こいつは放課後だな…。 俺は教室に向かった。 ~教室~ 「キョン!?もう平気なの?」 「びっくりしたぜ。急に倒れるからな。」 国木田と谷口だ。 「ああ、大丈夫だ。すまんな心配かけて。」 「キョン君大丈夫?病院行かなくて平気?」 「ああ朝倉、平気だ。単なる寝不足だからな。」 「寝不足?」 「ちょっと夜更かししすぎたみたいだ。そのせいでめまいがな。 今まで保健室で寝てたからもう大丈夫だ。」 俺はニカッっと笑った。 「…呆れた。どうせゲームでもしてたんでしょ?体調管理はちゃんとしないとね!」 「へいへい…」 朝倉は自分の席に戻って行った。 ……怪しまれなかっただろうか。 俺は背中が汗で濡れている事に気づいた。 このまま最後の授業を受け…放課後になった。 さて、朝倉に見つからないようにハルヒを捕まえなければ… 俺はげた箱まで先回りしハルヒを待った。 「キョン、ゲーセンどうするんだ?」 谷口?…そうか、こいつらとゲーセン行く約束してたんだ。 「すまん。今日は帰って寝るわ。まだちょっとめまいがな…。」 「そうか、んなら俺は国木田と二人で行くわ。」 「ああ、すまんな。」 「その代わり明日はナンパ付き合えよ!」 「おう!」 …すまん。元の世界に戻ったら必ずその約束果たすからな。 …。 …来た。 どうしようか…前回と同じで行くか? いや、朝倉に気づかれる恐れがある。時間も無いし…よし。 周りに人気が無くなった所で俺はハルヒに近づいた。 「世界を大いに盛り上げるジョンスミスをよろしく。」 俺はすれ違いざまハルヒにそう呟いた。 「な!?」 ハルヒは俺に振り向き 「…何であんたがその言葉を…」 驚愕の表情で呟き次の瞬間俺のネクタイを掴もうと手を伸ばした。 ヒョイ …予想してたからよけるのは簡単だった。 すまんな、今目立つ訳にはいかないんだ。 「詳しい話をしたい。いまからちょっと付き合ってもらえるか?」 「ちょっと…!」 「今は黙ってろ…着いたら話す。」 ハルヒはしばらくの間の後無言で頷いた。 …。 …。 …。 …朝倉に気づかれなかっただろうか…。 ハルヒと文芸部室に向かう途中俺は考えていた。 例えば朝倉が長門だったとして…長門に悟られる事無く行動できるか? …否。 …気づかれていると考えてよいだろう。 とにかく一刻も早く…。 …。 …。 …着いた。 「ここだ。」 俺はハルヒにそう告げた。 「あんたアタシの前に座っている人よね?…何者?」 「中に入ってからだ。」 俺達は文芸部室に入った。 中ではすでに古泉と朝比奈さんが来ていた。 二人は俺と一緒にハルヒが来た事に驚いているようだ。 …これで揃った。 前回と同じならこれで… …。 ピッ 「…!?」 良し! 俺は直ぐパソコンに向かう。 「ちょっとあんた!何やってんのよ!話てくれるんじゃなかったの!?」 「すまんみんな、少し待っててくれ!」 みんなに謝罪しパソコンの画面を見た。 …。 …。 YUKI.N …あなたは鍵を集めた。 これでプログラムが作動する。 でも私はこれを推奨しない。 あまりにも成功率が低すぎる…危険も大きい。 「…危険?」 YUKI.N …それでもあなたはきっと…。 …このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動せずに消去される。 Ready? …。 …。 答えは分かっているだろ、長門。 俺はお前を、SOS団を取り戻すと決めたんだ。 危険?上等だ! 俺は指を伸ばし、エンターキーを押し込んだ。 …。 …。 すると本棚が…横にスライドした!? 本棚の有った所に… …なるほど。そうか。 弾は三発…良いんだな長門。 「ちょっと!人を呼びつけといてさっきから何やってんのよ!!」 すまない、またせたな。 俺はそれを三人に向けた。 「なっ!?」 「ふぇ!?」 「な…何のつもりよあんた…。」 …俺は三人に銃を向けている。 「悪い。話すよりこれが手っ取り早いんだ。」 短針銃。以前も使った銃だ。 これでみんなの記憶を取り戻す。 …まずは…俺は特に考えもなく朝比奈さんに発射した。 針は朝比奈さんの首筋に命中した。 「はぅ…」 朝比奈さんはその場に倒れこんだ。 …すいません。でもすぐにわかりますから。 等と呑気に考えていた時だった。 ゲシッ! 「…え?」 気づくと腕を蹴り上げられ、銃が弾き飛ばされていた。 次の瞬間強い衝撃が俺の顔を襲った。 …俺…殴られ… 俺は古泉に銃を弾き飛ばされ殴られた後、そのまま古泉に押さえつけられていた。 「涼宮さん!彼女を!」 「わ…分かったわ!」 …俺って本当に馬鹿だ…何やってんだ本当に…。 銃を向けられ撃たれるってなったらそりゃ反撃するわな…俺だってそうするさ…。 「大丈夫!生きてるわ。眠っているみたい。」 「そうですか、良かった…さて。」 古泉は俺に向かって言った。 「あなた何をしているか分かっているのですか!?」 …古泉…お前いつも笑っていて気持ち悪い…って思っていたが…うん、やっぱりお前は笑顔が一番似合うぞ! そんな怖い顔するなよ…。 「待て!話を聞け!」 「あなたが何者で何を企んでいるかはのちに機関の方でゆっくりと聞かせていただきます。」 …ヤベ…絞められている…このままだと落ちる…。 古泉は俺を気絶させようとしている様だ…この力…こいつこんなに強かったのか…。 その時 「…ん。」 「大丈夫!?しっかりして!」 朝比奈さんが目覚めた!? 朝比奈さんは目を開け暫くボーっとした後、ハルヒ、古泉、俺…と見た。 「…朝…比奈…さん…。」 俺は朝比奈さんに手を伸ばした …ヤバい…意識が… 朝比奈さんは立ち上がり、 「古泉くん!ごめんなさい!」 そう言って古泉にタックルを喰らわした。 「えっ!?」 古泉は予想外の攻撃に対応しきれなかったらしく俺を離し朝比奈さんと一緒に転んだ。 「ゲホッ!ゲホッ!…はぁ…はぁ…。」 「キョンくん!今よ!」 ああ…朝比奈さん。 俺の朝比奈さんだ! 俺は直ぐに銃に飛びつく。 しかし古泉も直ぐに立ち直って銃に飛びついた。 …。 …。 …。 すまん。俺が早かったな。 「うっ!」 針は古泉の額に命中した。 そのまま俺の上に倒れ込む…重い。 「キョンくん!」 俺は古泉の下から抜け出し最後の一人に銃を向ける。 「これは一体どういう事なんですか?」 「朝比奈さん、話は後で。」 「…何よ…一体なんなのよ…」 ハルヒは床にへたり込んで怯えている…白か…。 「キョンくん…どこ見てるの…」 すいません。男の習性なんです。 「ハルヒ…すまない。すぐにお前にも分かるから。」 俺は引き金を引いた。 針はハルヒの太ももに命中…ハルヒも床に倒れ込んだ。 …やれやれ、やっと全員か…。 しかし油断した…危なかった。 最初に古泉を撃っとくべきだったな。 俺が反省している所で朝比奈さんの声が… 「…キョンくん、古泉くんが。」 「…ん。」 「起きたか古泉。」 古泉がノロノロと起き上がった。 「こ…これは…一体…。」 記憶が混乱しているようだ。 そりゃそうだ、記憶が戻ったとは言えしっかりこの世界の記憶もあるからな。 「まずは落ち着け。……それじゃ説明するぞ。」 俺は長門がメッセージで残した事を全て二人に伝えた。 …。 …。 …。 「なるほど、そういう事ですか…。」 「まさか…また世界が改変されていたなんて…。」 …とりあえず俺は仲間を取り戻した。 そしてこれからは…。 「そして、これからあなたは何をしようとしているのですか?」 「ああ…ハルヒに全てを伝えハルヒの力で全てを元に戻すつもりだ。」 俺は二人に伝えた。 …暫く沈黙が続く。 …まぁ、そうだろうな。古泉にしても朝比奈さんにしてもハルヒが自分の力に気づく事を望んでいない。 古泉が口を開いた。 「……分かりました。それしか長門さんを取り戻す方法は無い様ですしね。」 「…いいのか?」 正直驚いた。朝比奈さんはともかく古泉だけは絶対反対すると思っていたからだ。 「…雪山の約束もありますしね…それにあなたを殴ってしまった。いくら記憶が無かったとは言え…申し訳ない事を。」 「気にするな。当然の行動だ。」 「そう言っていただくとホッとします。 …それにですね。この世界での僕は予定通り直接涼宮さんに接触する事無く、ただ監視しているだけなんですよ…実につまらない日々です。」 「私も同じです。」 朝比奈さん? 「…無くなって初めて気づく物なんですね…。」 「そうです。僕は今回は機関としてでは無く、SOS団副団長としてSOS団を取り戻すために動かせていただきます。 もちろん長門も含めてです。」 古泉はいつもの笑顔を浮かべて言った。 「…古泉。」 「そうです!五人揃ってSOS団ですからね!」 「…朝比奈さん。」 最高だ。俺は一人じゃない! 「…ん。」 「涼宮さん!」 「起きたかハルヒ。」 「…キョン…あれ…何…これ…」 「落ち着け…これから全てを話してやる。」 …。 …。 そして俺達は今の状況、正体、力、全てをハルヒに教えた。 最初は信じなかったハルヒも俺がジョンスミスだったという所で俺達が冗談を言っているのでは無いと気づいたようだ。 ハルヒ「…まさに灯台下暗しってやつねね…。」 そうだろう、そうだろう。 ハルヒの待ち望んでいた宇宙人、未来人、超能力者がこんな近くに居たのだからな。 「…それで、どうやったら有希を取り戻せる訳?」 古泉が言った。 「現状では…涼宮さん。あなたの力に頼るしかありません。先ほど話した通り、あなたには神の如き力があります。」 しかしハルヒの反応は… 「…ん~、そこの所がイマイチ実感湧かないのよねぇ~。」 実感湧かないって…俺達がお前の力にどれだけ振り回されたと思っているんだ? 「ハルヒ!間違いなくお前にはとんでもない力があるんだ!だから…。」 …ここで俺の言葉を遮り女の声が響いた…。 「そこまでよ!」 俺達は一斉に振り向いた…そこには…。 「朝倉…涼子…。」 部室の入り口に朝倉涼子が立っていた。 「…長門さんにも困ったものね。こんな小細工をしていたなんて…。」 朝倉は「フン」と笑った後部屋に入って来た。 …。 …。 やはり気づかれていたか…。 「朝倉…長門はどうなっているんだ!」 朝倉は笑顔で言った。 「長門さん?ああ、とっくに消去されているわよ。」 なんだと…。 「何ふざけた事言っているのよ!有希を返しなさい!」 「…笑えない冗談ですね。」 「…なんて…事を…。」 「朝倉ぁ!」 みんな怒りに震えている。 「…なぁ~んちゃって。」 「…え!?」 「嘘よ嘘。そんなに怖い顔しないで。長門さんはちゃんと居るわよ…ほら。」 朝倉はそう言って首にぶら下げたペンダントを見せた。 ………あ!? 朝倉の首に掛けられているペンダントにたしかに長門が…居た。 「長門!」 「有希!」 「長門さん!」 「長門さん!」 長門はペンダントの中で悲しそうな目を俺達に向けていた。 「消去する訳無いでしょ?だって長門さん一度私を消したのよ?…そんな簡単に楽にしてあげる訳無いじゃない。」 「…長門を返せ!朝倉!」 「嫌よ。長門さんは今から罰を受けないといけないの…大事なお友達が目の前で殺されるのを見る…って罰をね。」 …やっぱりこいつの目的は… 「…記憶戻らなかったら良かったのにね。こうなった以上前回出来なかった事をやらせてもらうわ。」 …やばい…やばすぎる…。 「キョン君を殺して涼宮ハルヒの情報爆発を観測する…いや、あなた達三人を殺して。」 「!?」 俺達三人…俺と朝比奈さんと古泉か! 「朝倉!…お前の目的は俺だけだろ!この二人は関係無いはずだ!」 朝倉は笑いながら言った。 「状況が前と変わったのよ。あの時はそれほどその二人と涼宮ハルヒは近い関係に無かった。でも今は強い信頼で結ばれている…そう言う事よ。」 なおも朝倉は続ける。 「これから一人一人別の場所にご招待するわ…そして最後に涼宮さんを…切り刻まれたあなた達を見た涼宮さんはどんな情報爆発を見せてくれるかしら…フフフ。」 こ…こいつ… 「朝倉!お前!」 朝倉はナイフを構え。 「知ってた?神様って非情なのよ。…神様って言っても情報統合思念体なんだけどね。 …やっぱり最初はキョン君からね。さあ行きましょうか。」 朝倉はゆっくりと俺に手を伸ばした。 「――!?」 その時誰かが俺の前に出た…古泉!? 古泉は俺に笑顔を向けたまま…その場から消えた…。 …。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間~ …。 …。 …みんなが消えた!? …いや、僕が消えたと言った方が良いのでしょうね…。 僕と… 「順番は守らないとダメよ。そんなに死に急ぎたいの?」 …この朝倉涼子と。…。 「…長門さんが居ない今、あなたに対抗できるのは僕だけなものでしてね…。」 「へぇ~、もしかして勝てる気でいるの?」 「僕に…いや、俺に出来ないとでも思ったか!」 …ここではかしこまる必要は無いだろう。 俺は両手に力を込めた…大丈夫…力は使える。 「フフフ…怖い顔ね…あなたニヤケ顔してるよりもこっちの方が素敵よ。」 …しかし半分以下か…自分を光の玉に変える事はやはり出来ないみたいだ。 「でも残念ね…すぐお別れだなんてね。」 朝倉涼子はナイフを構えた。 「ああ、すぐにお別れだ。お前が俺に殺されてな。」 …勝率は…一割以下だ…絶望的な数字だな…だがやるしか無い。 俺の死〓みんなの死だ。 「口だけは達者ね…じゃあ…死んで!」 朝倉涼子は突進して来た。 俺も両手から光を出し死神へと向かった。 「おおおおおお!!」 …。 …。 …。 …。 ~部室~ 「古泉君と朝倉涼子はどこに消えたの!?」 「おそらく古泉は俺の代わりに朝倉と閉鎖空間に行ったんだろう。 …長門が居ない今、朝倉に対抗出来るのは自分だけだと思ってな…。」 …くっ…古泉… 「…古泉くん…帰って来ますよね…?」 …朝比奈さんは目に涙を溜めて言った。 「当然よ!なんてったって彼はうちの副団長よ!…絶対帰ってくる。」 …古泉…絶対帰ってこいよ!! …。 …。 …。 …。 ~再び閉鎖空間~ …。 …。 …。 「ぐっ!」 俺は壁に叩きつけられた。 「結構頑張るわね。でも後がつかえているのよ。そろそろ死んでくれない?」 どれくらい時間がたっただろうか。 …おそらく20分ぐらいだろうが俺には1時間にも2時間にも感じられていた。 「…化け物が。」 全身血だらけだ。体のあちこちに裂傷を負っている。 …背中の傷が一番深いか…。 朝倉は強い。何よりも素早く攻撃が当たらない。 いや、当たりはする。当たればその部分が消し飛ぶ。 だがすぐに再生しやがる。くそっ! それに…首に掛けられたネックレス…あの中には長門さんがいる… 下手に攻撃したら長門さんまで…。 「ほ~ら!」 朝倉はナイフを振るって…!? 朝倉のナイフは俺の首筋を掠めた。 「あら、惜しかったわ~。」 後数ミリで頸動脈が斬り裂かれていた…。 俺は右手の光を朝倉に投げる。 しかし朝倉は素早くよけ…足に命中した。 しかしすぐに再生される。 「…結構痛いのよ。これ…そろそろ本気で終わらせるわ。」朝倉は突進してきた…刺突か!? 「ぐっ!」 俺はわずかに身を交わし心臓への攻撃は避けたが朝倉のナイフは俺の左肩を貫いていた。 …激痛が走る中俺は目の前のペンダントに右手を伸ばした。 ブチッ 良し!取った! しかしその瞬間さらなる激痛が俺を襲った。 朝倉はナイフを俺の太ももに突き刺さしていた。 「ぐおっ!」 朝倉は俺から飛び退き言った。 「馬鹿ね。ペンダントを奪うのでは無くそのままその光で攻撃したら勝てたのに…長門さんが気になったのかしら?」 …ペンダントは奪い取ったが左手と足を封じられた…絶望的だ…。 「これで終わりね。」 朝倉は俺にとどめを刺す為突進してきた。 …駄目だ…動けない…みんなごめん。 朝倉のナイフが迫る。 …朝倉の動きがゆっくりに見える…これがドーパミン効果ってやつか…。 この軌道…右目から入ってそのまま脳にか…即死だな…。 そしてナイフが俺を貫いた。 …。 …。 …。 「…往生際が悪いわね。」 朝倉のナイフは俺の右の手の平を貫いていた。 俺は…まだ死ねない…。 俺はそのまま右手で朝倉の腕を掴み… 朝倉は俺が何をしようとしたのか分かったのか必死に飛び退こうとしたが… 「遅い!!」 左手から放たれた0距離攻撃…朝倉の体は赤い光に包まれ…消滅した。 …。 …。 …。 手の平に刺さったままのナイフが静かに崩れて行く。 俺は静かに言った。 「俺の勝ちだ…。」…。 …。 …。 閉鎖空間が崩れ始める。 俺は…僕は長門さんの入ったペンダントを見た。 長門さんが僕を心配そうな顔で見つめている。 「…さぁ…一緒に帰りましょう。」 そして空間が割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 突如俺達の前に血だらけになった古泉が現れた。 「古泉!」 「古泉君!」 「古泉くん!」 古泉は俺たちの顔をしばらく眺めた後こう告げた。 「……朝倉涼子は倒しました。」 古泉は静かに言ったがけして楽な闘いでは無かったのを全身に刻まれた傷が物語っていた。 「…酷い怪我…」 「…ふぇ…こ、古泉くん…だ、大丈夫ですか…?」 ハルヒと朝比奈さんは古泉を介抱している。 しかし大丈夫な訳が無い…今もかなりの出血が確認できる。 「古泉…よく頑張った…。」 「はは…これであなたを殴ったのは帳消しになりましたかね?」 笑みを浮かべ奴はそう言う。 「…馬鹿野郎。」 帳消しどころでは無い。 俺はいくらお前に釣りを渡せばよいんだ? 「…これを。」 古泉はそう言って俺にペンダントを差し出した。 「これは…長門!?」 ペンダントの中で長門は俺に何かを訴えているようだ…何?…開ければ良いのか? よく見るとペンダントの上部に小さいキャップが付いている。 俺は迷わずキャップを開けた。 するとペンダントから光が飛び出し、その粒子が俺達の前に人間の形を作り出した。 「有希!」 「長門さん!」 「…長門…さん」 ……長門。 俺達の目の前に長門が立っていた。 「……。」 長門はしばらく俺達の顔を見た後 「…古泉…一樹…。」 そう呟き古泉の所へと駆けて行った。 「…ごめんなさい…ごめんなさい…。」 何度も古泉に謝罪の言葉を呟いていた。 古泉は頭を振り 「長門さん、良かった…。」 と呟いた。 「長門、古泉の傷を治せないか?」 俺は長門にそう言ったが長門の答えは 「…無理。」 頭を振ってそう答えた。 「…情報統合思念体との接続が切れている…今の私には何の力も無い…。」 …よく考えたらそうだ。今回の敵こそ情報統合思念体だったんだ…。 くそ!まだ出血が続いている…このままだと命に関わるぞ…。 「…救急車を。」 朝比奈さん!? …そうだよ。救急車だよ。頭が回らなかった。 「俺が呼んでくる!」 俺はそう言って部室の出口に向かおうとした…が! …。 …。 …。 「な…。」 俺は絶句した…なぜならそこに 朝倉涼子が立っていたからだ。 「もう良いかしら?」 「お…お前…。」 朝倉はそのまま部室に入って来た。 「…不死身か…?」 古泉が驚愕の表情で呟いた。 そりゃそうだろう。 必死になって倒した敵が無傷で現れたのだから…。 朝倉は笑顔で言った。 「あら、古泉君、勘違いしないで。さっきのはあなたの勝ちよ。 さっきの私は完全に消滅したわ。」 「…どういう事ですか…。」 「こういう事よ。」 「……!?」 …悪夢としか言いようが無いだろう。 さらにもう一人朝倉が俺達の前に現れた…。 「たとえ今の私達を倒しても無駄よ。」 「また新しい私が現れるからね。」 …。 …。 …情報統合思念体の力でたとえ何回倒されようとも復活し続ける…朝倉はそう告げた。 「最後に長門さんに会えたから悔いはないわよね?」 「じゃ、そろそろ死んで。」 2人の朝倉がナイフを持ち近づいて来る。 …その時1人の少女が動いた。 「させない。」 …長門…。 長門が両手を広げ俺達を守るように朝倉の前に立ちふさがった。 「あら、長門さん。今やただのひ弱な女の子に成り下がったあなたが何をするつもり?」 朝倉が見下した目でそう言った。 「やらせない。」 しかし長門は一歩も退かず同じ言葉を口にした。 …俺は普通の人間。 朝比奈さんは未来人だが戦う力は持ってない。 古泉はすでに瀕死の状態。 長門はいまや何の力も無い少女になっている。 ハルヒはうつむいて何か呟いている …無理もない。いくらハルヒとはいえ実質は普通の世界で生きてきた女子高生だ。 いきなりこの様な場面に叩き出されたら壊れるのも無理は無い…。 すなわち…絶体絶命って事だ。 その時だった。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ ーー!? なんだ!? 俺はその奇妙な音の鳴る方を見た。 …。 …。 ……なんだ。鳩時計か…。 部室に掛けられている鳩時計が六時を知らせていた。 …。 …。 ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ポッポ~♪ …こっちは絶体絶命だってのに呑気に鳴いてやがる………って…え!? …鳩時計? んな馬鹿な…少なくとも俺の記憶の中でこの部室に鳩時計が飾られた事は無い。 なぜだ? 俺がそう考えていた時 …。 …。 「…なるほどね。」 …。 …。 その声の主は不敵な笑みを浮かべてそう呟いた。 「さて、今度はみんな一緒に招待してあげるわ。広い所にね。」 朝倉はそう言って指を鳴らした。 …。 …。 …。 ~閉鎖空間校庭~ 周りの風景が変わり俺達はいつの間にか校庭に立っていた。 「みんなまとめて殺してあげる。」 朝倉かそう言いながら再び指を鳴らすと……うわぁ……。 俺達の目の前に百人近い朝倉涼子が現れた。 「痛みを感じる暇も無いかもね…じゃ、行くわよ。」 百人の朝倉がナイフを構え俺達に飛びかかろうとしたその時。 「待ちなさい!」 その声の主、先程 「なるほど」 と呟いたハルヒが不敵な笑みを浮かべたまま朝倉にそう言った。 「何…涼宮さん?大丈夫よ、あなたは殺さないから。 あなたの役割は切り刻まれたお友達を見て情報爆発を起こす事よ。安心して。」 …何が安心だ。 「アタシはただ待てと言ってるの。」 ハルヒ? 「…そうね。お別れの時間くらい与えてあげても良いわ…。10分よ。」 「それだけあれば十分よ。」 ハルヒはそう言って俺達の方を向いた。 …なんだハルヒ、本当に別れの挨拶をする訳じゃないだろうな? 「古泉君」 「はい?」 「あなた超能力者だったわね? だったら手から炎を出したり傷を癒せたり瞬間移動できたりするわよね?」 古泉は表情を落とし。 「いえ…残念ながら…。」 そう呟いた。 残念ながら古泉にその様な力は無い。 こいつの力は限定された空間でしか使えない。 たしか最初に説明したはずだが? 「いいえ、使えるの!」 「え?」 何を言ってるんだ? 「アタシがそう決めたんだから使えるの。そういう事なんでしょ?」 ー!? そうか…そういう事か! 古泉はしばらくポカーンとした後…。 「…そうです…そうなんです!今、涼宮さんの言った能力、全部使えます!」 にっこりと笑いそう答えた。 「そう、ならちゃっちゃと自分の傷を直しちゃいなさい!」 「はい!」 …さっきの鳩時計もハルヒの仕業か。 それで自分の力に… 「みくるちゃん!」 「は…はい!」 「あなた未来人だったわよね?」 「はい…一応…。」 「ならあなたのポケットは四次元ポケットね。隠したって無駄よ!アタシには分かってるんだから! 早く未来の凄い武器でも出しなさい。」 朝比奈さんはド○えもんか! 「え!?…え!?…」 「朝比奈さん!」 …。 …。 …。 「……あ…そういう事…そう、そうです! 凄い武器出しちゃいますよ!!」 朝比奈さんはようやく気づき元気にそう答えた。 「有希!」 「……。」 長門は振り返りわずかに首を傾けた。 「あなた宇宙人だったわよね?」 「…正確に言うと対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。」 「そんなのどっちでも良いのよ!んで今はその能力が使えないと?」 「そう。」 長門は顔を落とし答えた。しかしハルヒは笑顔で言った。 「残念だけどそれは勘違いよ。あなたは自分の能力を全部使えるの、自分の意志で! アタシが今決めた!」 長門はその言葉にしばらく目を見開いた後 「コクン。」 大きく頷いた。 「キョン!」 俺?…俺はハルヒを見た。 「あんたは普通の人間なんだからみくるちゃんからなんか武器を貸してもらいなさい。」 「ああ。」 良かった。変な能力者にされないで本当に良かった。 「朝比奈さん。」 俺は朝比奈さんに話しかける。 「は、はい!……ふ、ふぇ…す、凄いの出ちゃった…。」 巨大なライフルらしき物を持ちそう言った。 それ本当にその小さなポケットから出たんですか…。 「これはどんな武器なんですか?」 「これは…その…禁則事項です。」 …分かりません! 俺と朝比奈さんが困っていると…。 「禁則事項禁止!」 ハルヒ? 朝比奈さんはしばらく沈黙した後頷き 「対ヒューマノイド・インターフェース用ライフル。 これは命中した相手の情報連結を解除出来る特殊武器です。 あ!ちなみに長門さんに当たっても大丈夫な用に作られてますから…。」 俺はライフルを受け取り 「…またずいぶん都合の良い武器が有りましたね。」 「ええ…まぁ涼宮さんですから…。」 なるほど、何でも有りか。 …ん?…古泉!? 瀕死状態だった古泉がいつの間にかいつもの笑顔で立っている。 「お前大丈夫なのか?」 「ええ、傷は癒やしました。涼宮さんに新たに頂いた力で。 …この戦い、いけますよ。」 ああ、いける。 俺は頷き次は長門に声をかけた。 「長門、どうだ?」 「涼宮ハルヒの力により私は全機能が復帰した。 今の私は全ての機能を情報統合思念体の許可無く使用する事が出来る。」 長門完全復活だ。 「私はこれよりジェノサイドモードを発動する。 これは戦闘モードの中の最終モード。 本来なら絶対許可は下りない。しかし今の私は情報統合思念体の許可は必要ない…様するに…」 長門の全身から凄まじいプレッシャーがにじみ出ていた。 「私は非常に怒っている。」 頼もしいぜ。 次に朝比奈さんに話しかけた。 「朝比奈さん、大丈夫ですか?」 「はい!オートターゲット機能がついていますから下手くそな私でも大丈夫です!」 朝比奈さんは銃を持ちそう答えた。 「キョンくんは大丈夫ですか?」 「俺ですか?…ええ。」 俺は笑顔で言った。 「この世界での連日のゲーセン通いは伊達では無いですから!」 …。 …。 「みんな、準備は良いわね!」 「ええ。」 「ジェノサイドモード発動完了。」 「は、はい!」 「おう。」 ハルヒは朝倉に向き直り。 「待たせたわね。」 「もう良いのかしら?」 ハルヒは不敵な笑みを浮かべ言った。 「さあ!どっからでもかかって来なさい!!」 こうして戦いが始まった。 …。 …。 …。 あそこで一度に3人の朝倉を焼き払ったのは、今やどこに出しても恥ずかしくないサイキックソルジャーになった古泉だ。 瞬間移動をしながら手から炎を出し戦っている。 …お前は草○京か! そして戦闘開始から凄まじい勢いで朝倉を倒し続けているのは、 ジェノサイドモード とか言う物騒な名前のを発動した長門だ。 よほど鬱憤が溜まっていたのか 「俺達必要ないんじゃないか?」 ってくらいの勢いで凄まじい勢いだ。 この2人が前衛部隊として戦っている後ろで俺と朝比奈さんは2人が討ちもらした朝倉を射撃している。 朝比奈さんは 「ふぇ…ふぇ…」 と言いながらもオートターゲット機能のおかげか確実に射撃を命中させている。 俺は連日のゲーセン通いで培った腕で射撃を続けている。 …谷口、国木田、ありがとう。 そして我らが団長、涼宮ハルヒは 「アタシが戦うまでも無いわ。」 とでも言いたげな感じで腕組みをし、笑みを浮かべ俺の後ろに立っていた。 …。 …。 そんなこんなでいつしか敵は朝倉1人残すだけとなった。 …。 …。 「朝倉、もうお前だけだぞ。」 俺は朝倉にそう言った。 …まぁ全部朝倉だった訳だが。 しかし朝倉は余裕の笑みを崩さない。 「あら、もう勝った気でいるの?」 朝倉は再び指を鳴らした。 …。 …。 --な!? 突如俺達の前に巨大な影が現れた。 …なんだこいつは。 その影は手にした棍棒らしき物でなぎ払いをしてきた… 「な!?」 「ひゃ!?」 その軌道上に居るのは俺と朝比奈さん! 俺達に棍棒が迫る。 避けられるタイミングじゃ無い…。 俺は朝比奈さんを庇うようにして抱きついた。 …。 …。 クラッ… …。 …。 俺を襲ったのは衝撃では無く、強烈な立ちくらみだった……あれ?この感覚は…。 俺が目を開けると… まるで棍棒が俺達をすり抜けたかのように通りすぎていた。 「2秒だけ…。」 「え?」 朝比奈さん? 「2秒だけ飛べました。」 そうか、時間移動。 朝比奈さんは俺達に棍棒が当たる瞬間2秒未来へ時間移動をしたのか。 朝倉、やっぱりお前は長門よりも下だ。 長門は完璧に時間移動を封じたぞ! …しかし…この巨大な奴は一体…。 --!? さらに4体の巨大な影が現れやがった…合計5体…。 「長門、あれは一体何なんだ?」 長門は静かに答えた。 「…ミノタウロス…。」 ミノタウロス!? 「…あれが?」 確かに良く見るとそれの顔は牛の形をしていた…神話で有名なあのミノタウロスだ。 「ミノタウロス…××星に生息する巨大生物。性格は凶暴。 …その肉は美味。」 …最後の一文が気になったが…まぁ良い。 とにかく倒せば良いんだろ! 俺はミノタウロスに射撃した……効かない? 次に古泉が炎を、光の玉を連続して放ったが…同じく効果が無い。 「無駄。」 長門? 「ミノタウロスに特殊な攻撃は通用しない。倒すには単純な力による攻撃しかない。」 「…長門。お前なら何とかできるよな?」 思い出したく無いがかつて長門はミノタウロスを調理し肉じゃがにした事がある。 しかし…。 「無理。」 …え? 「あの時倒したのは幼体。あれは成体…しかも5体…今の私でも無理。」 …。 …。 なんてこったい。 「形勢逆転ね。」 いつの間にかミノタウロスの肩に座っている朝倉がそう言った。 「くそっ!」 どうすれば良い…見ると古泉や朝比奈さんの顔にも焦りの表情が見える。 「おい!ハル…」 俺はハルヒに振り向き……え? ハルヒの顔には焦りの表情は無く、先ほどまでと同じ笑みが浮かんだままだった。 ハルヒの視線…ハルヒは朝倉やミノタウロスを見ておらず、もっと後ろ……あ!? 「あ!?」 「ふぇ!?」 「……あ。」 ゆっくりとそれは現れた。 …なるほどな。 「…くっ…くっ…くっ…。」 思わず笑いがこみ上げる。 「…ふっ…ふっ…ふっ…。」 見ると古泉も笑っている。 「…何?恐怖で狂ったの?」 朝倉が怪訝な表情で俺達に言った。 「ははははははは」 俺と古泉の笑いがこだました。 「あなた達状況がわかっているの?私の命令一つであなた達死ぬのよ?」 状況がわかっているのかって? 命令一つ? これ以上笑わせるなよ。 「これが笑わずにいられるかよ? なぁ、古泉?」 「くっくっくっ…まぁ、僕としては複雑な気分でもあるんですけどね。」 そりゃそうだろうな。 「……。」 朝比奈さんは呆然としている。 そうか、朝比奈さんは見た事なかったな。 「長門、面白いだろ?」 長門は静かに言った。 「ええ。とてもユニーク。」 状況が1人分かっていない朝倉はイラついたような顔で 「なによ!なんなのよ!!」 と繰り返している。 「キョン。」 ハルヒ? 「教えてあげなさい。」 OK。 「朝倉。」 「何よ!」 「後ろを見てみろよ。」 「後ろ? …………!?」 朝倉は後ろを振り向き…絶句した。 そりゃそうだろう。 後ろでさらに巨大な巨人が今にも自分を叩きつぶそうと拳を振り上げているんだからな。 「……な…な…な…。」 「…神人。」 古泉が静かに呟いた。 神人…ハルヒが自ら生み出した閉鎖空間で暴れさせていた巨人だ。 しかし今はハルヒの命令を待つかの様に拳を振り上げてたまま待機している。 「やりなさい。」 ハルヒの声が響く。 それと同時神人の拳が振り下ろされた。 「ひっ!」 朝倉は小さく言葉を発し、ミノタウロスの肩から飛び退いた。 次の瞬間5体のミノタウロスは完全に叩き潰された。 「…すげえ。」 俺は思わず呟いていた。 そして静かに神人は消えていった。 「…で、形勢逆転がどうしたって?朝倉涼子?」 ハルヒの言葉を聞いた朝倉は怒りの表情を浮かべ立ち上がった。 「調子にのってるんじゃないわよ!殺してやる!!」 朝倉は絶叫しナイフを俺達の頭上に投げた。 ………!? ナイフが何千いや、何万という数に分裂し俺達を囲んだ。 これが俺達に降り注いだらひとたまりもないだろう。 しかし俺は落ち着いていた。 何故かって? ハルヒが笑顔のままだったからだ。 「ナイフの全方位攻撃よ! 手加減してあげてたのに図に乗って!……死になさい!」 朝倉の一言により何万ものナイフが俺達に降り注ぐ……事は無かった。 …。 …。 「な…なんで…。」 「馬鹿ねぇ。」 ハルヒは今日見せる最大級の笑顔で言った。 「そんなのアタシが許すとでも思ってるの!」 全てのナイフが音も無く消滅していく。 …ハルヒは…。 「すごい…涼宮さん…。」 「ええ、彼女は完全に…。」 そう、ハルヒは完全に自分の力を使いこなしていた。 「…覚醒。」 …長門? 「涼宮ハルヒは覚醒した。今の涼宮ハルヒに勝てる者はもはや存在しない。」 朝倉は狼狽していた…いや、恐慌していると言った方が良いだろう。 朝倉は一瞬逃げるような素振りを見せた後、石像の様に動かなくなった。 「あなたが動く事も許さない。」 「…あ…あ…。」 ハルヒはゆっくりと朝倉に近づく。 「…よくも…よくも好き勝手してくれたわね。」 笑顔だったハルヒの表情が徐々に怒りの表情に変わっていく。 「有希を閉じ込めたり…アタシ達の…SOS団の記憶を消したり…キョンを…みんなを殺そうとしたり…古泉君をあんな酷い目にあわせたり…。」 ハルヒを見ると…………泣いていた。 怒りの表情で体を震わせ涙を流していた。 「…アタシはあんたの存在を許さない。未来永劫ね。」 ハルヒの言葉に朝倉は…。 「…やめて…お願い…それだけは…それを言われたら…私は…。」 今さら何を言っているんだこいつは…。 「古泉、言ってやれ!」 古泉は頷き穏やかに言った。 「朝倉さん、知ってますか? 神様って非情なんですよ。 まぁ、神様とは言っても僕らの団長の事なんですけどね。」 古泉は朝倉に言われた事をそっくりそのまま返していた。 さらに古泉は続ける。 「あなた方は涼宮ハルヒを舐めていた。その結果彼女の逆鱗に触れる事となった。 残念ですが我らが団長は敵にはどこまでも非情になれる方なんですよ。」 古泉はニッコリと微笑んだ。 「アタシはあんたを絶対許さない!あんたが再び生まれる事も許さない。 消えなさい!朝倉涼子!永久に!!」 ハルヒがそれを言ったと同時に…朝倉涼子は…消滅した。 もう二度と朝倉が現れることは無いだろう。 ハルヒが言った以上絶対だ。 触らぬ神に祟り無し この言葉をちゃんと理解していたら良かったのにな…朝倉。 そして空間が歪み…割れた。 …。 …。 …。 ~部室~ 「終わりましたね。」 古泉が言った。 ああ、終わった。 後は世界を元に戻すだけだ。 「……ごめんなさい。」 ん?長門? 長門は続ける。 「今回の件は全て私の責任。ごめんなさい。」 お前の責任なんかじゃない。 それに今言う事はそれじゃない…。 「長門、違うだろ?今お前が言わないといけない事は一つだけだ。」 長門は目を見開きしばしの沈黙の後言った。 「……ただいま。」 「お帰り、長門。」 「お帰り、有希。」 「お帰りなさい。長門さん。」 俺、ハルヒ、朝比奈さん、古泉が同時に言った。 …本当にお帰り。長門。 「さて、んでどうすれば良いのかしら?」 ハルヒが俺に言った。 「そうだな、お前の力で元の世界に戻すんだ…いや、二度とふざけた真似できないように情報統合思念体存在を消した世界をな。」 「分かったわ。」 その時だ。 「待って。」 ん!? …。 …。 その声の主は部室の入り口に立っていた。 「喜緑さん…。」 喜緑江美里…生徒会書記、その実体は長門や朝倉と同じ対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース…彼女が何故? ハルヒが呟く。 「なるほど、朝倉涼子の次はあなたって訳ね。」 その言葉に喜緑さんは首を振り 「いいえ、あなた方と争うつもりはありません。 あなた方に今の情報統合思念体の事を伝えに来たの。」 …。 …。 喜緑さんの話しによると、今回の件は急進派によるクーデターみたいなものであったらしい。 そして現在は元の通りになった。 二度と急進派が表に出る事は無い。 つまり、情報統合思念体を消すのを止めてくれ…って言いたいらしい。 「それを信じる理由は無いな。」 俺はそう言った。 当然だ。また奴らが同じ事をしないという保証は無い。 「私も情報統合思念体を消さない事を推奨する。」 長門!? 長門は続ける。 「喜緑江美里の言っている事は事実。 情報統合思念体の消去による影響は甚大。」 長門の話しによると情報統合思念体が消えるとこの世に大きな不具合が発生し、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいと…。 しかしなぁ…。 「もしもまた同じ事があったらどうするんだ?」 俺の問いに長門は 「それは無い。涼宮ハルヒが許さないと言った以上絶対。だから心配ない。」 俺はハルヒを見た。 「…まぁ、有希が言うなら仕方ないわね。 喜緑さん、分かったわ。」 ハルヒがそう言うなら仕方ない。 「ありがとうございます。 …それじゃ長門さん、後はお願い。」 喜緑さんは去っていった。 …。 …。 「私が涼宮ハルヒの力を使い元の世界に戻す。」 長門? 「今日の事が無かった事になりあなた達が今日経験した記憶は消える。」 「記憶が…消える?」 「そう、私以外の記憶は消え、当たり前の1日が始まる。」 ハルヒが声をあげる。 「ちょっと待って!それってアタシはまた何も知らない状態に戻るって事? 自分の力、有希が宇宙人、みくるちゃんが未来人、古泉君が超能力者って事も全部?」 「そう。でもそれがあなたの望み。」 ……なるほどな。 何でも自分の思い通りになる世界をハルヒが望むか? …否。 そんな世界をハルヒが望む訳が無い。 ハルヒが望んでいるのはいつもの日々だ。 ハルヒが無茶な事を言い出して俺達が振り回される。 みんなで馬鹿な事をやり笑いあえる…いつもの日々。 「帰ろうぜ、あの日々に。」 俺はハルヒに言った。 「…そうね。帰りましょう。」 古泉と朝比奈さんも笑顔で頷いた。 「改変を開始する。」 長門がそう言うと周りの景色が歪み…真っ白な世界になった。 それと同時に俺達の体が光に包まれる。 「ところで、僕の力はどうなるんでしょうか?」 「古泉一樹、あなたの力は一時的に涼宮ハルヒにより与えられた力。記憶の消失と共に消える。」 「それは残念ですねぇ。」 古泉は残念そうな顔で呟いた。 「ああ、あと涼宮さん、なるべく閉鎖空間を生まないようにしてください。」 気持ちはわかるが今言っても忘れているから意味ないぞ。 「ふっ、それならあなた達アタシを退屈させないように頑張りなさい。」 ハルヒは笑顔でそう言った。 俺と古泉は肩をすくめ呟いた。 「やれやれ…。」 …。 …。 そして長門が口を開いた。 「みんな…ありがとう。」 そして全てが光に包まれる…。 …。 …。 …。 ~キョンの部屋~ ガタン 「痛ってえええ。」 …どうやらまたベッドから落ちたらしい。 今何時だ?……2時か…。 ……何か夢を見ていたみたいだが……思い出せない。 物凄く苦労した夢だったみたいだが…まぁ、そのうち思い出すだろう。 寝よう…。 …。 …。 …。 ~教室~ 「おはよう。」 「おはようキョン。」 いつもの朝、教室に入った俺は友人の国木田、谷口と朝の挨拶を交わした。 「ちょっと!キョン!聞いて!」 なんだハルヒ?朝っぱらからテンション高いな。 「昨日凄く面白い夢を見たのよ!」 夢? 「もしかしてまた俺と古泉がお前に飯おごらせようとして、お前が財布を忘れて古泉がロリコンからホモになったあれか?」 「違うわよ!」 「違うわよ!」 違うのか…古泉には悪いがあれは正直面白かった。 「どんな夢だ?」 「それがね!覚えて無いの!」 ……は? ハルヒは覚えて無いけど物凄く面白い夢だったと言っている。 なんだそりゃ…そう言えば俺もなんか夢を見たな…覚えて無いけど…かなり苦労した夢…まぁ良い。 「おはようみんな。」 担任の岡部が入って来た…そんなこんなでいつもの1日が始まった。 …。 …。 …。 ~放課後の部室~ いつも通りみんな集まり、それぞれ思い思いの事をやっていた。 ハルヒは団長席でふんぞり返り、朝比奈さんはメイド服でみんなにお茶を配り、俺と古泉はカードゲームをし、長門はいつもの席でいつもの様に自動読者マシーンと化している。 途中でまたハルヒが夢の話しをしだした。 それぞれ昨日どんな夢を見たか? ハルヒ「凄く楽しい夢だった。でも内容は覚えていない。」 俺「凄く苦労した夢だった。でも内容は覚えていない。」 古泉「凄く痛い夢だった。でも内容は覚えていない。」 朝比奈さん「凄くオロオロする夢だった。でも内容は覚えていない。」 みんなバラバラだ。 共通点は覚えていないって所か。 「有希?あなたは何か夢見た?」 長門は本から顔を上げコクンと頷いた。 長門も夢を見るのか? 「んでどんな夢?」 長門はしばらく考えた後 「凄く幸せな…嬉しい夢。」 と答えた。 「で、内容は?やっぱり覚えてないの?」 長門は首を振り言った。 「覚えている。」 「教えて。」 「……内緒。」 内緒か…まぁ幸せな夢だったら良いか …っと思っていた時長門が急に立ち上がった。 そして… 「みんな……ありがとう。」 …。 …。 …なんで俺達は長門にお礼を言われているのだろうか? 皆を見てみるが皆困惑の表情を浮かべている。 でもそんな事はどうでも良い。 皆もそう思っているだろう。 だって… 長門が今、最高の笑顔で微笑んでいるのだからな…。 …。 …。 …。 …おしまい。
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コンコン 「どうぞ。」 ガチャ 「失礼します。どうしたんですか?喜緑さん。」 「今日はちょっと涼宮さんについて試してみたいことがございまして、あなたに協力していただけないかと。」 「なんでしょう?」 俺はこのとき、俺にできることならなんでもやるつもりだった。 「涼宮さんが今まで他の人にしてきた行為と同じ事を他の人に涼宮さん自身がされたらどういった反応を示すのか試して見たいのです。」 「えっと、具体的にはどういった事をするんですか?」 「こうするのです。」 喜緑さんはいきなり自分の服を乱暴に脱ぎ、半裸になった。 「何してるんですか喜緑さん!服着てくださいよ!」 「あなたが着させてください。それまでは私は服を着ません。」 俺は逃げればよかったんだろうけど、あまりの出来事に脳はショートしていた。 喜緑さんも宇宙人という先入観も手伝ってとりあえず服を着せてやろうとした。 その瞬間。 カシャ! なんと生徒会長が写真を撮った。 「え!!???」 「じゃあそういう事だ。詳しいことは喜緑くんに聞いてくれたまえ。」 そう言うと生徒会長はこの部屋を出て行った。 「どういう事なんです?とりあえず服着てください。」 「このままでいいじゃないですか。それに言ったはずですよ?『今まで他の人にしてきた行為と同じ事を他の人に涼宮さん自身がされたらどういった反応を示すのか試して見たい』と。 簡単に言いますと、朝比奈みくるさんとパソコンを奪った方法でSOS団から部室を取り上げようとしているのです。生徒会長はこれから現像してSOS団に乗り込みます。」 「何を言ってるんですか喜緑さん!そんなことして何になるんですか?」 このとき俺はハルヒが俺を切り捨てて終わるんじゃないかとか、長門が何とかしてくれるとか考えていた。古泉も、朝比奈さんもいる。 つまりSOS団自体には俺がいなくなる可能性があるだけで変わらないと思ってた。 思ってたから喜緑さんに説明すれば撤回してもらえると考えたんだ。だからこのとき俺はそこまで焦っていなかった。生徒会長を追わなかった。 「あなたの考えている事はわかります。しかし我々思念体の判断は、涼宮ハルヒはあなたの不祥事に対し閉鎖空間を発生させます。 この場合の閉鎖空間は相当な大きさになり、まず古泉一樹は自由に行動できないでしょう。」 「長門がいる。あいつは俺の事を信じてくれるハズだ。」 「長門さんは、そうですね。あなたの事を信じているから、今回は静観することに納得してくれました。 あなたと長門さんはこの問題が終わるまで連絡を取ることはできませんが伝言を承っております。」 「なんです?」 「誤解は解ける。あなたを信じている。」 そうだ、何故か俺が悪いことをした雰囲気に持ち込まれているが、俺は何もしてないんだ。 「そうですね、長門の言うことを信じて誤解を解こうと思いますよ。まだSOS団を脱退したくないんでね。」 「あなたならそうおっしゃると思いました。私もあなたなら誤解を解くと思っています。」 「なら何故こんなことをするんです?」 「長門さんと同様、私も穏健派なんです。自体の急変は望まない。なぜなら対応できない事態に陥ったときのリスクが大きいと判断しているからです。」 「じゃあやめてくださいよ。」 「しかし、長門さんの観察により、涼宮ハルヒはあなたを信頼しているため、誤解が解けると判断されました。 ならば、自体を急変させ、観察し、誤解を解かせる。平穏に事態は収拾されます。」 「リスクがないから異常事態を発生させるんですか?」 「平たく言えばそういうことになります。」 「ついでに、朝比奈みくるの異次元同位体からも伝言を承っております。」 「なんでしょう?」 「『この時間帯の私は事態を把握していません。邪魔にさえなりかねませんが、この誤解が生まれる事は決まった事なんです。』と。」 「なら誤解を解くしかないのでしょう。ところで、長門が俺のと連絡取れなくなるのは何故です?」 「うふふ、禁則事項です。」 そこでウィンクですか。似合ってはいるが、朝比奈さんほどではないなとか考えていると、 「そろそろですね。がんばってください。」 と言い、急に喜緑さんは泣き始めた。 「どうしたんですか?大丈夫ですか?」 俺は焦って近寄った、瞬間 ドーン!! 「ちょっとキョン!!!どういうこと!!?この写真は!!???」 泣く喜緑さん。喜緑さんに近づく焦った俺。そういえば喜緑さんの服は… 「えっ?キョン?何してんの?ウソでしょ?」 しまった!最悪のタイミングだ。 「ハルヒ、落ち着け!」 「落ち着ける訳ないじゃない!!なんなのよアンタいったい!!」 ハルヒがそう言い終わった直後に朝比奈さんと古泉が来た。 「キョンくん…」 朝比奈さんは泣いていて、今にも倒れそうなほどショックを受けてるのがわかる。 「キョン!!なんとか言いなさいよ!!」 「だから、落ち着け。俺は何にもしてない。全ては誤解だ。」 「喜緑さん泣いてるじゃない!!そんな風にしといてよく誤解だなんて言えるわね!!」 コイツは人の話を聞かないことを忘れていた。 「申し訳ありませんが、状況を把握できていないので説明してもらえませんか?」 まるで俺に弁解するチャンスをくれるように言ってきた。だが表情はいつもより硬い。 「古泉くん、さっき生徒会長が来たでしょ!??そんでこの写真渡されて、お宅の部員が生徒会の役員に卑猥な事を強要してるって言うのよ! 信じる訳ないじゃない??いくら写真に写ってても、偽造とか疑うでしょ??そしたらこの部屋に行ってみろって言われたの!!来たらこのありさまよ!!」 「あなたからも説明してもらいたいのですが?それと朝比奈さん、彼女を保健室まで連れて行ってくれませんか?」 「はい…。」 さて、誤解を解くか…。 っ!!しまった!ハルヒの前で説明できない!どうする?考えるんだ。落ち着け、俺。 「何も言わないの!??アンタそんな人間だったの??」 そうだ、襲われたのは喜緑さんだ。古泉ならわかってくれるかもしれない。 「少し古泉と二人で話したいんだが、ダメか?」 「ダメに決まってるじゃない!!アンタどうせ逃げるんでしょ?それとも男なら気持ちわかるだろとか言って古泉くんを仲間にするつもり?」 なんの仲間だ。 「そうか。古泉、良く聞け。お前は、本当に俺が、喜緑さんを襲ったと思うか?いや、襲えたと思うか?」 喜緑さん、という単語を強調してみた。女性が喜緑さんだとわかってか、古泉の顔がニヤケた。いつもはウザいが、今日は朝比奈さん並みの笑顔に見える。 「俺は何にもやっていない。」 「なるほど。あなたの言い分はわかりました。僕個人としてはあなたを信じているのですが、この状況では僕には何もできそうにありませんね。」 もしかしたら、古泉は宇宙人の思惑にまで気付いてくれているのかもしれない。だが、古泉まで『涼宮さんとあなたなら誤解は解けるでしょう』とか思ってたら最悪だ。 「古泉くんはこのバカキョンの事を信じるのね。」 「ハルヒは信じてくれないのか?」 「あいにく、あたしは自分の目で見たことしか信じないの。」 ハルヒらしいな。 「じゃあ、ハルヒは俺が襲ってる所を見たのか?」 「見てないわよ。だからアンタにも弁解の余地をあげる事にするわ。」 やれやれ。弁解のしようによっては誤解は解けるかもな。もしかしたら誤解は解ける事が未来では決まっていたのかも知れない。 そうだ、いい事を思いついた。朝比奈さんとお前がコンピュータ研のパソコンを奪ったときを例にあげて、朝比奈さんに害が及ばないようについでに注意しとくか。 どうせ誤解は解けるんだし。 「ハルヒ、今の俺の状況は、お前が朝比奈さんを使ってコンピュータ研のパソコンを奪ったように生徒会長が喜緑さんを使って俺をはめ、SOS団を解散させようとしたんだ。 もう一度言う。俺は何もやってない。」 「ウソよ!喜緑さん泣いてたじゃない!」 「朝比奈さんだって泣いてたじゃないか。朝比奈さんは翌日学校を休んだんだぞ?言い換えればお前は俺に怒ってることと同じ事を朝比奈さんにやってるんだ。」 「え…」 ハルヒはとまった。目には涙が浮かんでる。 携帯の着信音が聞こえる。すごい速さで遠ざかっている。 やはり古泉の姿は消えていた。 喜緑さんと朝比奈さんは保健室。古泉はおそらく閉鎖空間。長門はいない。つまり俺とハルヒは二人きりだ。 「なあハルヒ、俺を信じてくれないか?」 「違うわ!!あたしとあんたとじゃあやってること全然違う!だってあたしは女でアンタは男じゃない!!」 しまった。少し言い過ぎたか。こうなるとハルヒは人の言うことを聞かなくなる。 「そうだな、少し言い過ぎた。だけど、俺は何もしていない。」 「何よそれ。意味わかんない。こんな状況で何を信じろって言うの?」 「そうだな。俺と古泉が逆の立場だったら信じられないかもしれない。」 「…喜緑さんにも話を聞いてくる。あんたは部室にいなさい!逃げたら死刑だからね!!」 「わかった。」 はあ、本当に俺は何にもしてないんだけどな。ハルヒも落ち着けばきっと信じてくれるだろう。 それよりも喜緑さんが余計なこと言わなければいいが、あの人もこれ以上は危険だってことはわかるだろう。いくら穏健派でも。 そんな事を考えてたら部室に着いた。ノックしないで入るのは久しぶりだな。 ガチャ 「えっ?長門??なんで??」 なぜ長門がここに?この件が終わるまでは俺の前にでないんじゃなかったのか? 「あなたは未来を書き換えた。よって誤解が解けない可能性がでた。それが私がここにいる理由。」 「どこで俺は未来を書き換えたんだ?」 「おそらくあなたは未来を予想した。本来なら弁解しかしない所、涼宮ハルヒに反論してしまった。 これにより涼宮ハルヒはあなたに対する信頼を低下させた。低下した信頼とあなたの誤解が解ける可能性は共に未知数。」 「そうか、俺は余計な事をしたんだな。どうすりゃいいんだ?」 「どうにもならない。」 えっ? 「もう誤解は解けないのか?」 「そうではない。誤解が解ける可能性はあくまで未知数。わたしにもわからない。あなたに賭ける。」 まるでいつぞやの閉鎖空間のようだな。ただあの時は答えがでてた。今回は同じ解答をすると取り返しのつかない事になるのは目に見えている。 「そうか、なら俺は誠心誠意誤解を解く努力しますよ。」 やれやれだ。 「わたしも協力する。」 そうか、助かるよ。 ガチャ。 「あんたいったいどんな脅しをしたの?喜緑さんは『彼の言った通りです。』しか言わないわ。」 「だから俺の言った通りなんだって。」 さて、どんな弁解をしよう。一番簡単なのは古泉が生徒会長に暴露させることなんだけどな。居ないけど。 「あの~キョンくん、本当に何もやってないんですか?」 朝比奈さん、来てたんですね。平気そうで何よりです。ただ、信用してもらえないのはちょっと、いえ、結構傷つきます。 「彼は何もやっていない。」 長門、何故お前が言い切る。逆に不自然だぞ? 「ちょっと有希!あんた何か知ってるの?」 「何も。」 「なんで有希までキョンを庇うのよ!古泉くんも庇ってるみたいだったし!」 「あの~涼宮さん、やっぱり私もキョンくんはそんな事するとは思えないんですけど。」 そうか、長門の正体を知ってる朝比奈さんなら長門の言うことの信頼性がわかるのか。俺は信じてもらえなかったけど。 「みくるちゃんまで?決定的証拠まであるのよ?」 「でも、わたしも喜緑さんと同じ事させられたんですけど。でもコンピュータ研の部長は無実じゃないですか。だからやっぱりそれは証拠にはならないんじゃないのかなって。」 「そう。わたしは証拠がないなら彼を信じる。」 朝比奈さん、長門!ナイスコンビネーション!! 「でも…」 ハルヒがごもった。これは誤解が解けるかもしれない。 「私は彼を信頼している。彼がどのような人間か知っている。彼はやってない。 それにもし彼が襲うとしたら、より弱者である朝比奈みくるを狙う。」 「狙わん!」 「わたしは信じてます。キョンくんがそんなことしないって。それに、キョンくんって意外とモテるんですよ?」 「キョンがモテるって?そんなわけないじゃない!仮にモテたとしても、関係ないわ!」 「彼が本当に暴走する人間なら私と言う固体を使ってエラーを除去する。」 「ちょっと有希!それどういう意味よ!」 「そうですね、わたしもキョンくんが本当にそんなことする人間だったらわたしにすればいいのにってちょっとだけ思いますよ」 長門、朝比奈さん。そこまで俺を信用しないでくれ。俺だって一般的な高校生なんだ。普通の高校生なんだ。 「あんたたちそれはどういう意味?」 「そのままの意味。」 「でもね、本当は私たちよりもっとキョンくんの事を好きって人を知ってるんです。」 朝比奈さん達のさっきの言葉には『俺の事好き』って意味も含まれてたのか。それはとても感無量だ。説得するためとはいえ、そんなこと言ってもらえるなんて。 ところでもっと俺の事好きって人?いったい誰だ? 「誰よこいつのこと好きってヤツは!」 「その人は、キョンくんがそういう事しないって信じてるからこそ今回の事件で取り乱したの。 でも本当は何故自分にそういう事しないんだって憤りも感じてるの。それに気付いてないから怒ってるんだと思う。 それに、その人はキョンくんに好かれている事をわかってると思う。」 「そう。」 長門に朝比奈さんのコンビって意外と強力だな。ところで誰なんだ?ハルヒにはわかったのか? 「まあいいわ。今回は有希とみくるちゃんに免じて特別あんたを信用することにするわ。その代わり言ってることが違ったら、わかってるわね?」 「ああ。わかってる。俺は本当に何もしていないから問題はない。」 ところで問い詰めないところをみると俺の事好きな人ハルヒは誰だかわかってるんだな。 誤解もほとんど解けたし、後は古泉に任せよう。そして帰りに俺の事好きだなんていう奇特な人の名前も聞いておこう。 「じゃあキョン!帰るわよ!」 「おいおい、俺の事疑っといて謝罪の言葉もなしか?」 「関係ないわ!疑われるようなことするあんたが悪いのよ。」 やれられ。余計なこと言わなければもっと早く信じてもらえたのかな? 「ところで朝比奈さんに長門。俺の事好きだって人、誰だ?」 「有希!みくるちゃん!こんな強姦魔には何も言わなくていいからね!」 顔が赤いぞハルヒ。 「いい。彼に襲われる事に問題はない。」 顔が青いぞハルヒ。 「でもキョンくんはその人以外にはしませんよ、涼宮さん。 それより、その『好きな人』がキョンくんと付き合っちゃえばそんな事しなくなるし安全じゃないですか?」 また顔が赤くなったぞ、ハルヒ。 「それより朝比奈さん、俺はそんな事してないですししないですよ?」 「そうでしたねっ」 「キョン!帰るわよ!!」 やれやれ。もうちょっと信用あると思ってたんだけどな。 帰り道はハルヒと二人だった。 「なあハルヒ、そろそろ教えてくれよ。いったい誰なんだ?」 「みくるちゃん言ってたじゃない!アンタの事を好きな人は、アンタが好きな人よ!」 なるほど。 「そうか、ようやく理解したよ。」 「他にいう事はないの?」 「違ってたらすまん。…ハルヒ、好きだ。」 「バカ。」 「違ったのか?すまん。だがコレは俺の本当の気持ちだ。」 「バカ。」 「ごめん。」 「バカ。」 「泣いてるのか?」 「あんたが鈍感すぎるのがいけないのよ!」 「すまん。早とちりだった。」 「本当にアンタは早とちりしすぎよ!」 「だからすまんって。」 「いい加減気付きなさいよ!あたしだってアンタの事好きなのよ!」